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17話 子供を助けにカチコミです
公爵領を出発した俺たちは、辺境伯領を経由し、隣国のナーヴェ連合国へ向かっている。
途中、辺境伯領の教会で教区長へ大金貨を寄付し、子供の為に使うよう強く言い含め、隣国の情報を入手した。
本当はシャルルから聞こうと思ったのだが、帰ってき次第どこかへ行ってしまったそうだ。二週間ほどで帰ると言っていたようで、遠出では無さそうなのだがタイミングが悪いな。
教会で聞くと、ナーヴェ連合国は五つの小国からなり、王国と接しているのはその内の一つ、国境の国コスタというそうだ。
国境国コスタは海に近いようで、海産物がとても豊かなんだとか。食文化などは詳しく聞けなかったが、お刺身はあるだろうか、正直とてもワクワクしている。
公爵領から馬車で十日かけ、国境国コスタに到着した。早速街を散策したいところだが、まずは宿屋の確保だ。
門の衛兵にオススメの宿を聞くと、予算を気にしなければ街の広場の先にある虹の入江亭が一番とのことで、そこへ向かうことにした。
街の広場に差し掛かると、何か催し物でもやっているのか、どよめきや喧騒に溢れていた。
「また消えたぞ」
「なにがどうなってるんだ!」
「おい、お前分かったか?」
「小さいのに大したもんだ」
耳を傾けてみたが、大道芸人でもいるのだろうか、ちょっと気になる。
「ねえねえ、後で見に行こうよ!」
「ああ、俺も気になってた」
美砂も気になっていたようで、あとで一緒に見に行くことにする。
虹の入江亭は広場の一本裏手だったようで、直ぐに到着した。さっさと荷物を下ろし、街を散策がてら先程の大道芸人でも見に行こう。
この世界では、宿に着いたらお湯とタオルで旅の垢を落とすのが基本なんだけど、俺たちは身体清浄魔法クリーンでいつでも快適だ。
荷物を置いて、早速三人で広場へ向かう。
先程の広場は見えてきたが、沢山いた人達は既に散ってしまっている。
「終わっちゃったみたいだな」
「残念だね、見たかったなー」
「ひと足遅かったようですね、何か屋台で食べながら情報でも集めませんか?」
残念ではあったが小腹も空いているし、エドモンの言う通り、この街周辺の情報を集めがてら食べ歩きすることにした。
「焼き魚が美味しいな」
「そうですね、王都と比べればランバート公爵領も魚が美味しいと思ってましたが、正直これは別格ですね」
海が近いということで魚は屋台などでも売っていたが、やはり干物のようだ。潮の香りはしないし、海が見えるほど近いわけではないのだろう。生魚は期待薄かな、それに……。
「ねえ、口に何か入れてる大人が多くない?」
「恐らくですが、麻薬が結構出回っているようですね」
二人も気づいた通り、口の中で何かをころがしている大人がとにかく多い。
公爵から国境王への手紙を預かっているので、国境王に会う日程を調整するため、早速エドモンに動いてもらうことにした。
エドモンを待ちながら美砂とのんびり歩いていると、広場の方から歩いてきた住民の話し声が聞こえてくる。
「さっきのって、広場で大道芸をやってた女の子じゃないか?」
「見たが、連れてった奴もみただろ?」
「ああ、セグレトファミリーの下っ端だよな」
「可哀想に、あんなに小さい子が……」
「なにがあったの!?」
止める間もなく、一瞬で話題に入り込む美砂さん、流石っす。
「いや、さっき大道芸をやってた女の子がな、この街の裏を仕切ってるセグレトファミリーに連れていかれちまってな、酷い目に合わなきゃいいんだが……」
「なんで助けてあげないのさ!」
「そんなこと言ったって、アイツらに逆らったら何をされるか、それに女の子も場所代を払って無かったんだろうし」
「場所代?」
「ああ、広場で商売するなら許可をとる必要があるんだけど、あの辺一帯はセグレトファミリーが抑えてるからな、使用料を払うんだよ。そのルールを守って無かったなら、むしろお嬢ちゃんに落ち度があるんだ」
「そ、そんな……。だって子供だったんでしょ?」
「小さい子だったけど、だからってルールを知らないじゃ済まされないだろう?ただな……、最近街の子供が誘拐される事件もあってな、それがあいつ等じゃないかって噂されてるんだ」
美砂が両手を強く握りしめているのか、上半身を震わせている。
「オサム君!」
「落ち着け。言いたいことは分かるけど、そこのオッサン達が言うとおり、俺たちが手を出すのはお門違いだぞ?」
「でも、子供が誘拐されてるかもしれないなら助けないと!」
「待て待て、その助けが必要かどうかの判断基準がただの噂なんだぞ?それに今回の件に関して言えば、正しいのはセグレトファミリーかもしれない」
「そ、そう……だよね……。ぼ、僕もそう思う、かな!」
美砂は納得しようとしているようだが、完全には飲み込めないのか、落ち着きなくこちらの様子を伺ってくる。
一つため息をついて、とりあえずその女の子の様子だけでも確認しに行こうかと考え直す。
「じゃあエドモンが戻ってきたら、セグレトファミリーのとこに行こうか」
「え?う、うん!オサム君ありがとう!」
満面の笑みで返事をする美砂をみて、少しくらい流されるのもいいかと思うことにした。
エドモンが戻ってきたので事情を説明したのだが、やはり苦笑いだ。
それはそうだ、三人でマフィアの本拠地へ遊びに行き、助けが必要かどうかも分からないのに勝手に首を突っ込もうというのだ、苦笑いの一つもしたいだろう。
それでもついてきてくれるエドモンには感謝しかない。俺一人ならなんとかなりそうだが、美砂を守れるか分からないからな。
そんなことを考えながら歩いていると、セグレトファミリーの本拠地に到着したようだ。
「なんだお前達は、ここがどこか知っているのか?」
辺境伯の屋敷よりも大きい本拠地に目を白黒させていると、門番が話しかけてくる。
「ごめんください、広場で大道芸をやっていた女の子に用があるんですけど」
「ああ?知らねえよ、今帰るなら見なかったことにしてやる」
「困ったなあ、女の子が連れて来られたかどうかだけでも知りたいんだけどなー」
俺は説明口調で門番に言い、金貨一枚を握らせた。日本円で言えば百万円の実弾だ。
「そういえば、ついさっき若い衆が引っ張って来たな。ショバ代を払って無かったらしいが、ガキだし売上を全て没収されて終わりだろう」
実弾は効力が高いね。お釣りで聞いてない情報まで貰えた。しかし、いよいよもって武力行使するだけの材料はないな。
これで満足ですかと美砂を見ると、やる気満々な様子だ。え、カチコミしろってこと?
もう一度屋敷の方に目をやった。まぁ悪さしてなければこんなに大きな屋敷には住めないだろうし、殴り込んだら悪さの痕跡も見つかるかな。よし、それでいこう。
俺は門番の二人に首トンをして、意識を刈り取った。
「オサム殿?まさか……」
「うん、殴り込んで女の子を見つけます。暴れながら誘拐された子たちや悪さの痕跡を見つけます。後付けでコチラの正当性を主張します」
「いや無茶苦茶ですよ!そんなの完全にコチラが悪者じゃないですか」
「まぁ最悪お金で決着つければいいよ。知っちゃったし、放っておいて、万が一子供たちに何かあったのを後から知ったらご飯を美味しく食べられなくなる」
「はああああ、お尋ね者になっても知れませんからね」
「そうなったら国境王に助けて貰って、お金か行動で恩返ししよう」
「わかりました……」
「オサム君、ごめんね。僕が助けたいって言ったからだよね」
「発端はソレだけど、決めたのは俺だよ。見知らぬ女の子やマフィアのために、気分を害されたくないってだけ」
「うん……。ありがとう」
俺たちは正面から直接乗り込んだ。
屋敷の入口で一応ノックをしたが、反応がなかったので全員に身体強化をかけ、そのまま入ることにした。
「お邪魔します」
「なんだてめぇら!門番はどうした!」
屋敷に入ると、とても広いエントランスに五人のマフィアがいた。
「疲れてお休みされてますよ。それで、さっき連れてこられた女の子どこ?」
「やっちまえ!」
号令とともに襲いかかってきたマフィアを殲滅する。といっても気絶させるだけなのだが、思っていた以上に弱いから楽勝だ。
最後の一人を残しておき、女の子の居場所を聞く。
「それで、どこ?」
「し、知らない」
「尋問とかしたくないんだけどな、異常事態を知らせる呼子みたいなのはある?」
「ソイツの首にかかってる。どうするつもりだ」
マフィアが指した方を見ると、気絶したマフィアの首にホイッスルのようなものを掛けているのが分かった。
俺はそれを首に掛け、質問したマフィアを気絶させた。
「じゃあ手当り次第いこうか」
「オサム君……それどうするのか聞いてもいい?」
「え?笛でも吹きながら歩こうかと思って」
「オサム殿、我々は人間です。オサム殿とは違い、死ぬことだって有り得ます」
「俺も死ぬ事は有り得るよ?でもこんな弱いのではどうにもならないよ、二人にだって身体強化をかけてるから、かすり傷もつかないと思うよ?」
「しかし、用心棒などがいるかもしれません」
「用心棒!?」
「オサム君、また凄い顔になってるよ?」
おっと、どうも表情筋に力を入れていないと口角が上がってしまうようだ。
「じゃあ基本は俺が戦うから、二人は防御だけに徹すれば問題ないでしょう?ほら、ちょうど盾も落ちてる」
「それなら大丈夫だと思いますが……」
「分かったよ」
話しもまとまったことで、広い屋敷を笛を吹いて回ることにした。
「ハーメルンの笛吹き隊だな!」
「オサム君、それ多分ブレーメンの音楽隊じゃないかな?」
あれ?違ったっけ?
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