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21話 水国マルクスへ出発です
翌日、気分も復活した俺は仲間たちと話し、これから水国マルクスへ向かうことにする。
水国はここから馬車で九日ほどかかるため、午前中は食料や水などの買い出しである。
その後は昼食だけ済ませて国境王などへ挨拶し、昼過ぎには出発できた。
「リオン、僕の所においでよ!一緒に座ろう」
「シャーッ!話しかけないで欲しいのです!」
美砂はなぜか相変わらず嫌われている。落ち込んでしまった美砂を横目にリオンへ質問する。
「なあ、なんでそんなに美砂を避けるんだ?」
「リオンからパパを取ろうとしてるのです!リオンは騙されないのです!」
「なっ!?な、な、なな何を」
美砂がめっちゃ慌てている、漫画的な表現ならアワアワ書かれる状態だろうな。
「そんなことより、これから一緒に旅をするのに、こんな関係だと息苦しくて嫌だよ。美砂は歩み寄ってくれてるから、俺は美砂にだけ優しくなっちゃいそうだなー」
リオンは百面相をして、最後は苦難の表情を強く浮かべながら美砂の所まで移動し、彼女の足の上にすっぽりと収まった。
美砂は待っていましたと言わんばかりに手持ちカバンから櫛をとり、リオンの髪を梳く。
なんだかんだ気持ちよさそうに髪を梳かれているリオンを見ると、甘えるきっかけが欲しかっただけなのかもしれないな。
移動の序盤で仲を取り持つことが出来たので、俺は今まで通り走って進むことにした。
途中で魔物に会うこともあり、何度か戦っていたのだがいつの間にか全員身体強化が出来るようになっていた。
他人身体強化で魔力の流れを理解出来たらしい。美砂は攻撃魔法をどうしても使いたがらないので、これからのことも心配だったのだが、これで不意に即死となるようなことはないだろう。
リオンは一度だけ他人身体強化をかけてあげたらすぐに使えるようになった、やはり獣人とは相性がいい技なのだうか。
「ぶっころなのです!」
今もアクション映画真っ青な動きで飛び跳ねながら、パンチやキックを連続して入れ、オークを無傷で圧倒している。
これなら守ってあげる必要など全然なさそうだ。
魔物との戦闘のあと、リオンが俺と一緒に走ると言いだしたので、しばらく一緒に走っていると、馬車の荷台で一人になった美砂まで運動だと言って走るようになった。
結局、移動中の馬車には御者のエドモン以外は積荷しか乗っていない状態である。
またしばらく走り続け、俺たちとすれ違う人達の驚く顔にも慣れ始めた頃、水国マルクスへと到着した。
早速、いつものように宿を探そうと思ったのだが、どうやら水国王の指定宿があるらしい。国境王が先触れでも出しておいてくれたのかな?
しかし、その宿屋の名前を聞けば宿屋魔法少女というそうだ。嫌な予感しかしないな。
場所を聞き、宿屋魔法少女の前まで移動した俺たちは恐る恐る建物に入る。
「いらっしゃいませ、何名様でお泊りですか?」
よかった、普通の少女だ。
「マルクス水国王からここに泊まるよう言われているんだ。門衛さんからこの手紙をここで出すように言われたよ」
俺は安心してこちらの用事を伝え、門衛から貰った手紙を渡す。
「これは……。少しお待ちくださいね」
少女は難しい顔をしてカウンターの奥に引っ込んでいったので、外を行き交う人たちをしばらく眺めていると、カウンターの方から声が聞こえた。
「どうしたポヨ?」
聞き覚えのある語尾に身震いしながら声がした方向に目をやると、またしても魔法少女ハゲマッチョが出現した。
「ぱ、パパ!おじさんみたいな女の子なのです!」
「もう、そんなこと言ったらプンプンポヨ!」
くっそ、二回目とか関係なしにインパクトが強すぎる。
「ね、ねえオサム君。今度はウサギちゃんだよ」
「ウサギちゃん?」
「うん。ヴィーナス、マーズときて今度はムーン、主人公だね」
「月か、服だけ見れば一般的なセーラー服……か?」
「うん、セーラー服って言ったらこれだよね」
「こ、ここに泊まるのですか?」
エドモンがとても緊張している。どうやら魔法少女と初対面のようだ。あれ?
「ランバート公爵領にもいたが、気づかなかったのか?」
「え……?いやいや、居ませんよあんなの!」
「屋敷の近くに呉服屋魔法少女ってのがあっただろ?」
「なんですか、それ。私は生まれも育ちもランバート公爵領です、そんな店は絶対にありませんでしたね」
全身に鳥肌が立った。
「美砂……」
「う、うん。変だね、もしかして記憶から?」
「分からないが……万が一もある。宿は変えよう」
「そ、そうだね」
リオン、エドモンの順に宿屋を出ていき、次に俺が出ようとしたとき……。
「遺跡へ行け」
またか、間違いない。アイツだろう。
ダンディーな声が聞こえ振り返ると、またしてもポヨ?と小首を傾げている。
「き、急に振り返ってどうしたの?」
「ん?美砂は今の声が聞こえなかったのか?」
「声って?」
「いや、いい大丈夫だ」
何が起きている?対象を俺に絞っているのか?
遺跡か。かなり不気味ではあるが……謎解きゲームみたいで楽しくなってきたじゃねえか。
「オサム君、また顔こわいよ?」
「おっと」
結局俺たちは別の宿に泊まり、翌朝から水国王のもとへと向かった。
水国王は女性で、名前をレジーナ・マルクスと言うそうだ。俺たちは簡単な自己紹介を済ませて、国境王から預かった手紙を渡す。
水国王は手紙を読み終え、隣の青年に読み終えた手紙を渡した。水国王は大変難しそうな顔をしているので、先に宿屋魔法少女について聞こうとしたのだが……。
「私たちを助けて下さい!」
まだ挨拶も交わしていない、手紙を読んだ青年が俺たちに頭を下げてきた。
「失礼だが俺たちは君「聞かせて!」
美砂さんや、ほぼノータイムで話を聞こうとするのはやめませんか?
「失礼しました。彼はこの水国に面した穀倉国アジェロの者です。穀倉王の息子に当たるのですが、聞けばこちらの国に逃げのびたようなのです」
「逃げのびた?」
要領を得ない水国王の説明に、俺は聞き返す。
「どうやら、この手紙にも書いてある麻薬の件で。私もこの手紙を読むまで、彼の言っていることが分からなかったのですが、少しお話しを聞いて頂けませんか?」
ふう……。間違いなく面倒事だぞこれ。
「分かった。聞くだけになるかもしれんが話してくれるか?」
とりあえず同意すると、青年が頭を上げて話し始めた。
「感謝いたします。私はオルランド・アジェロと言います。まずお伝えしたいのは、穀倉国アジェロは既に壊滅状態にあるというです」
「壊滅状態、ですか」
「はい。魔人族に国を占領され、国民達も狂人のようになってしまいました」
「魔人族……?」
「元々は穀倉国の民ではあるのですが、現在では魔人族化しています。国には私の父である穀倉王が残り、レジスタンスとして国を取り戻そうとしているのですが……」
「人間が魔人族になるなどありえるのか?」
「私は聞いた事がありませんね」
「私も初めて聞きました」
俺の疑問に、エドモンと水国王が答えてくれる。
「彼は帝国に与していて、穀倉国を帝国の傘下にするためには国民さえ巻き込むような売国奴でしたが、元が人間であったのは間違いありません」
「それで、その人間がどうやって魔人族になったんだ?」
「そこで関わってくるのが、この手紙にも記載のある、既に各国へ広がっているという麻薬ハイロなのです」
「おいおい、飴を舐めてると魔人化するとか言わないよな?」
俺の発した疑問に、エドモンが顔を青くさせる。
「飴だけなら問題ないはずです。穀倉国でもまずは飴が流行していたんですが、しばらくしたら視点の定まらない凶暴な狂人が増えて来て……」
「気付いたら狂人だらけになっていた、と」
「はい。調査では詳しく分からなかったのですが、依存性のみの麻薬飴、狂人を生み出す麻薬ハイロ、それに魔人化させる更なる麻薬もあるようなのです。魔人化したソイツが自慢げに語っていました」
まず依存性だけに絞った飴をバラ撒いているあたり、偶然ではなく長期的な計画が存在していそうだな。
人族を滅ぼそうとしている魔人族が搦手で攻めてきている、と考えれば辻褄は合うか。
だが、麻薬は人族を滅ぼすもの。毒ガスは魔族を滅ぼすもの。俺はこの二つが同一人物によるものだと思ったが、もしやそれぞれに地球人が関わっているのか?
「先程の手紙で、あなた方が麻薬の存在を追っていると知りました。穀倉国のことは間違いなく麻薬の件に迫ることだと思います。力を貸してください!」
「悪いが無理だ。俺たちにとってそこまでの危険を犯すほどのメリットがない」
「オサム君!」
「その魔人族は国を乗っ取った、つまり数百人単位の騎士と戦っても勝てる奴なんだろう?」
「はい……。城の常駐騎士は三百名以上いましたが、数名の狂人とその魔人族に壊滅させられました」
「危険だな、俺たちは別にヒーローなんかじゃない。無償での人助けなど簡単に受けるもんじゃない」
「そうかもしれませんね」
話を聞き、エドモンも同意してくれる。
「でも……」
「危険を犯すほどのメリットがないと仰いましたが、無償でなければ……皆様にメリットがあれば……お力添え頂けるのですか?」
オルランド青年が表情を辛そうに歪めながら尋ねてくる。おそらく、藁にも縋る思いなんだろうな。
「そうだな。もしかすると命懸けになるかもしれない。それ相応のものがあれば考えるだろうが、よっぽどの物だけだぞ?お金なんかいらんからな?」
流石にこちらが納得出来るようなものは差し出せないだろうと軽返事をすると、オルランド青年は先程とは打って変わって自信満々な様子になった。
「穀倉国の秘宝、転移魔石をお譲りすると言ったらどうでしょうか?」
「よし、詳しく話したまえ!」
「オサム君……」
「オサム殿……」
いやだって転移魔石だぞ?
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