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22話 穀倉国アジェロへ出発です
転移魔石!一体何が出来るんだい?胸アツ展開じゃないか!ほれはよ説明せい!
「転移魔石は穀倉国アジェロの東にある、砂漠国への入口で発見された巨大な魔石です。三つの魔石があり、それぞれの魔石の元へ瞬間的に移動出来るため転移魔石と呼んでいます」
「なるほど、それほどの物を貰えると?」
「はい。転移魔石がなければ、今後穀倉国は国交に苦労するでしょう。ですが、国自体が無くなってしまう事を考えれば贅沢など言っていられませんから」
転移魔石が予想通りの代物なら、転移魔法をセットした魔石ということだろう。考えたことは無かったがどういう理屈なんだ?
「いくつか聞きたい。移動が瞬間的と言っていたが、どうやって計ったんだ?」
「魔石で転移した後すぐに、また転移して帰ってくることで、転移元に残っていた人が数を数えたそうです」
「その結果は?」
「五つ数えている間に、穀倉国アジェロと、ここ水国マルクスを行き来できたそうです」
「距離はどれくらい離れているんだ?」
「魔物馬車で片道六日ほどです」
ざっくり計算で八百キロメートルか。往復四秒だとすれば秒速四百キロ、核融合は起こさない程度の速度だが、太陽風つまりプラズマに迫る速度だ。
いやいや秒速四百キロだと?分子の何倍の速度だと思ってる。空間に穴でも空けない限り、最低でも人間が原子や素粒子レベルまで分解され高速転送が行われた後に再構築されていることになる。
魔力さんは遺伝子情報どころじゃない、原子もしくは素粒子レベルまで人体の設計図をもっているとでも?
違うだろうな、三次元フィールドを折りたたみ……いや、空間やその他の次元情報にアクセス可能な手法を確立していると考えた方が自然だ。そしてそれはつまり、地球へ帰る方法にも繋がるはずだ。
「いいだろう、穀倉国アジェロを救いに行こうじゃないか」
「ありがとうございます!」
「流石オサム君!」
「危険はあるかもしれませんが、かつての戦争で会った魔人族でしたら、全く問題ないレベルでしょう」
リオンの反応がないため見てみると、いつの間にかソファーで寝てしまっていた。リオンはどうしようかな。
「オサム殿、心配なのは分かりますが、リオンは既にソロでオークを下せます。大きな危険はないと思いますよ?」
心配なのが顔に出てしまっていただろうか、エドモンが諭すように教えてくれる。
「そうだな。一人だけ置いていくより、皆んなでいた方が安全かもな」
俺はリオンの近くに行き、頭を撫でてやる。
「さて、魔物馬車で六日かかる道のりなんだろう?さっさと行かないと間に合わなくなる。急ごうか」
「では、支援物資の用意と軍を編成しますので、一日お待ち頂けますか?」
水国王も国を挙げて応援を出すようだ。
「じゃあ俺たちだけ先に行ってるよ、走っていけば休憩入れても夕暮れ前に着くだろうし」
「走っ……え?」
俺たちは既に全員が身体強化を使えるので、車よりも速く走ることが出来る。荷物を運んだり、見栄えを気にする必要が無いのであれば、馬車なんかよりずっと速い。
「ま、待ってください!本当に走って行くつもりですか?魔物馬車で六日かかるのですよ?」
「ええ、俺一人だったら鐘半分くらいの距離ですね」
水国王は信じられないといった顔だが、オルランド青年は信じてくれたようだ。
「ほ、本当にそれほど早く着くのなら少しだけ待ってくれ。レジスタンスの長をやっている父に手紙を書く」
「ああ、分かったよ」
「それから、狂人は今までの基本生活を踏襲するみたいなんだ。だから夜に着いた方が奴らの動きも少なくて安全だと思う」
「そうか、じゃあお昼ご飯を食べたら行く事にするよ」
オルランド青年の手紙を受け取り、俺たちはお昼ご飯を食べる事にした。まだ街の散策が出来ていないので繰り出そうと思ったのだが、屋敷でそのまま振る舞ってくれることになった。
水国は海が近いようなのでワクワクしていると、なんと鱒寿司が出た!
醤油はなく、酢で締めたものを塩で頂くスタイルなのが少し物足りなかったのだが……。
「ご飯だ」
「ご飯だね!」
俺と美砂は大興奮で焼き魚と白飯を頼んでしまった。俺たちは若いし、ラノベの主人公達みたいにそこまで米なんか必要ないと思っていた。
だが、米との再開で気付いてしまった。
あの主人公達は正しい。パン派の美砂ですらこうなのだ、日本人はご飯がなければ生きていけないのだ。
俺たちの普段とは違う様相を疑問に思ったのか、エドモンが質問をしてきたため、故郷の食物であり、魂の穀物であることを熱弁してしまった。
目の前には湯気が出ている炊きたてであろうご飯がある。お米自体は日本とは違いまっしろではないので、精米技術などには差があるかもしれない。
食器も茶碗ではなく平べったいお皿だし、お箸はなくフォークだ。
それでも、ひと口目で涙が出た。
「パパ、悲しいのです?」
「忘れそうになりますが、お二人は急に連れてこられてるんでしたね。それほど故郷の味に似ていましたか?」
俺は隣に座るリオンの頭を撫でながら答える。
「全然似てないし、改良の余地だらけだよ……」
「うん……。でも、懐かしいね」
うん、決して美味しい訳ではなかったが、やる気になるには十分だった。
向こうに着くのは夜だし、せっかくなので夜ご飯用におにぎりを作ってもらう事にする。ご飯は腹持ちも良いし、ついでにレジスタンスの物資としても持っていこう。
俺は六百リットルの水が入った樽を背負い、美砂とエドモンはおにぎりを沢山持って出発準備万端だ。
「私も後で必ず駆けつけます、皆さんがお強いのは分かりますが、無理はしないようにしてください」
「ああ、無理はしないよ」
オルランド青年や水国王に挨拶をして、俺たちは走り出した。
「キャッフー!リオンは、リオンは風になっているのです!」
「はは、リオンは楽しそうだけど、この速度で走るのは慣れないとちょっと恐いね」
「私も普段は御者ですから、恐怖心がありますね」
最近は走って移動することが多いのだが、馬車の速度に合わせたものだ。今はその十倍程度の速度で走っているからな、生身でやってるわけだし恐怖心も当然だろう。
人にぶつからないように注意していたのだが、そこそこ大きな街道なのにも関わらず、人とすれ違うことなど一切ない。国が壊滅していれば商人の行き来もないか。
それから、水国と穀倉国のちょうど中間辺りにある休憩ポイントで気付いたのだが、エドモンとリオンは、俺や美砂に比べると身体強化の持久力がないようだ。恐らく身体構造の理解力に関わっているのだろう。
かなりのペースで進んでいるので、後半はゆっくりと体力や魔力を大きく消費しない程度の速度で進んだ。着いた瞬間にボス戦で、魔力切れとか洒落にならないしな。
少しペースは落としたのだが、概ね予定通り、穀倉国に到着することができた。
門を守る衛兵はおらず、街を照らす明かりもほとんどないため、まるで街全体が闇に沈んでしまったようだ。
走っている時には心地よく感じた風も、今は不気味な音を立てて建物の隙間を通り抜けていく。
辺りを警戒しつつ街に入る。
疎らに残る街灯の僅かな灯りを頼りにゆっくりと進んでいくと、闇の中から声が聞こえて来た。
「お前たちは何者だ、この街に何の用がある?」
気づけば囲まれていたらしい。闇の中での行動は彼らに一日の長がありそうだ。
さて、敵か味方か。
俺たちは不意打ちを警戒しつつ、互いに背中を合わせることで死角を無くす。
「俺たちは水国マルクスで、穀倉王の息子オルランドから要請を受け、穀倉国を魔人族から奪還しにきました。あなた達は魔人族側か?」
「残念だったな。どうやってオルランドの情報を知ったか知らんが、オルランドが離れてから水国への道を往復出来るほど時間は経っていない。何が目的だ」
「警戒は尤もですが、オルランド青年から手紙を預かってるので誰か読んでください。だけど、手紙を渡すのは、まずあなた方が魔人族側かレジスタンス側か聞いてからですね」
「私たちはレジスタンスだ。その場に手紙を置き、少し離れろ」
ふう。なんかあれだな、ハリウッド映画のシリアスシーンみたいだな。
俺はそんなことを考えながら、言われた通りに行動する。
「確かに、これはオルランドの字だな。お前達が背中に背負っているのは水などの物資だと書いてある。それに、とても信じられないが走って来たとも……」
手紙を拾った中年男性は、疑り深くこちらを探るように見て、反応を伺がっているようだ。
「悪いですけど、武器を向けられたままのこの緊張感はそろそろ面倒です。和解出来ないなら、俺たちはこれから勝手に飯を食うし、勝手に魔人族を倒す。敵じゃないならもういいだろ、ほっといてくれ」
「パパ、もうご飯にするのです?」
「オサム君……」
「オサム殿……」
美砂とエドモンは呆れてしまっているようだが、いつまでもハリウッドごっこに付き合ってられるか。うちのリオンはそろそろオネムの時間なのだ。
「分かった、お前たちを信用しよう」
「アジェロ穀倉王!よろしいのですか!?」
ああ、なんだ。この人が穀倉王だったのか。
「私はオルランドの父であり、レジスタンスの長をしているルイージ・アジェロだ。ここで食事をされるのも困ってしまうのでな、我らの隠れ家にお連れしよう」
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