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23話 転移魔石は俺のモノです
俺たちは穀倉王に連れられ、レジスタンスの拠点に来た。
昔は武器などの倉庫にしていた所だそうだが、現在では廃棄されているそうで、壁や屋根の穴からは風が吹き抜けていく。
お世辞にも過ごしやすい環境ではないが、戦えない人たちを囲うには十分な広さみたいだな。それでも居住スペースは一人一畳くらいのものだろう、ほとんどすしずめ状態だ。
「この場にいるのはここにいる百名だけだ。同じ規模の倉庫がここを含めて東西南北に四か所あってな、定期的に行き来しているが、ほとんど同じ状態だな」
「そうですか。手紙にも書いてあったみたいですけど、水とおにぎりを持ってきています。四百名で分けると少ないかもしれないですが、無いよりいいでしょう」
「正直やりくりに一番苦労していたのが食べ物と飲み物だったのだ、感謝する」
穀倉王は、おにぎりを齧りながら近況を吐露する。
レジスタンス達は食事を避難民に分け与えながら、自分達も食事を始める。ようやく穀倉王以外も俺たちを信用してくれたようだ。
「それで、君たちは首都リオの奪還をしてくれる代わりに転移魔石が欲しいと?」
「ダメなんですか?」
「いや、全くもって構わないよ。ただ、聞いたと思うが転移魔石は三つあってね、そのうちの一つがこの国の城にあるんだよ」
「城を奪還したら手に入るってことですかね?」
なんだ?そんなことをあえて言う必要無いだろう。
「そうであって欲しいと思うのだが、城には魔人族となったエステ・ペレグリーニがいる。元々エステは隣国である滝国カスカータから流れてきた者でな、どうやら転移魔石を狙っているようなのだ」
「なんだって?」
「彼は移住してきてすぐに不思議な飴を配り始めてな、程なくして議会に入れるほどの権力を持ち、帝国の傘下になるよう提案してきたのだ」
「それ……帝国のスパイだったんじゃないですか?」
「ああ。しかし、議員たちのほとんどが帝国の傘下になることは反対してな、否決になったのだが今度は転移魔石の場所をしつこく聞いてきた」
「なるほど、飼い主へのお土産がなくなったからその代わりにするつもりかな?」
「恐らくは……。転移魔石は隠し部屋に置いてあってな、置き場所は断固として教えないようにしていたんだが……そこからは急だった。多くの国民があちらこちらで狂人となって暴れだし、エステは魔人族を名乗り出したのだ」
「それで、その魔人エステは今も城にいるってことでいいんですか?」
「ああ、城には多くの狂人がいて近づけないが、間違いないだろう」
「その狂人がいるとなぜ近づけないんです?」
「麻薬ハイロは非力な女性さえも怪力な狂人に変えてしまい、私たちは住民にさえ苦労しているんだ。そのうえ、城にいるのは元々騎士だった者たち、元の力が強い分……」
「外を徘徊している奴らより数段強いかも……と」
穀倉王は無言で頷く。
まあいい、転移魔石は必ず貰うつもりだ。魔人族はバイバイするしかないだろう。
しかし狂人はどうだろうな、薬で脳のリミッターを外しているだけとも考えられる。それなら即効性離脱魔法ウィズドロウで治せるかもしれないんだよな。この国の戦力的には敵を減らして味方を増やす作戦が有効か……。
とりあえず外で狂人をとっ捕まえて、美砂に魔法をかけて貰うのが手っ取り早いな。
「ちょっと試したいことがあるので、狂人を引っ捕まえてきますね」
「は?いやいやいや、危険だよ?彼らは凄い力なんだ、Cランクのオークと同じ程度の力はあるよ?」
「その程度なら問題ありません。美砂、ウィズドロウを使ってもらうよ。一匹捕まえてくるから少し待っていてくれ」
「うん、分かった!」
呆然としている穀倉王を尻目に俺は外に出て、はぐれ狂人を探しに行く。
やはり外は暗いのだが、いくつか街灯が点いているので完全な闇ではない。中学生ぐらいの頃にやった森の中での肝試しに比べれば地面もしっかりと見えている分、怖さは半減だ。
とはいえ、俺自身かなり強くなったはずなのに、暗い夜道には一定の恐怖心が生まれてしまうのは何故なんだろうか。もしかして人間としての本能なのかな?
そんなことを考えながら歩いていると、見つけた。どうやら一人のようだ。
千鳥足で歩いているところを見ると、飲んだ帰りなのだろうか。狂人は私生活を踏襲すると言っていたからな、毎日飲み歩いてるじいさんなんだろう。
年配者に首トンは殺してしまいかねないし……。しょうがない、引きずって帰ろうか。
それから、狂人は叫んで仲間を呼ぶんだったな。
俺は腰につけている袋からおにぎりを出し、包みごと歩いているじいさんの口に突っ込むことで叫べなくし、布を猿轡のように使い捕獲した。
うん、はたから見たら酷い絵面だな。
だが仕方ないだろう?誰にともなく、心の中で言い訳をする。
ミッションコンプリートしたので、暴れるじいさんの片足を持ち、引きずって隠れ家に持って帰ると、さっき出ていった時と同じ顔をしている穀倉王がいた。
あれ、美砂も同じ顔をしてるな。
「オサム君、それは老人虐待じゃないかな……」
「じじぃだけど暴れん坊だからな、おんぶなんて出来ないぞ?」
暴れ続けるじいさんを隠れ家の柱にきつく縛りつけながら美砂へ返答する。
「そう……なのかも知れないけど、やっぱり絵面がね……」
「まあいいよ、美砂こっちに来て」
「うん」
俺は美砂の手を取り、イメージ共有魔法をかけた。
「いくよ、即効性離脱魔法『ウィズドロウ』」
美砂の手のひらから放たれた光がじいさんに吸い込まれる。しかし、麻薬飴の時は全身に広がった光が吸い込まれるだけで終わってしまった。
「あれ、失敗かな?」
「もしかす」
俺の感想に美砂が返事をし始めた瞬間。
じいさんは直視出来ないほど眩しく発光し、苦しそうに唸りだした。
眩しいし、うるさい!
隠れ家に住む全員の視線を一身に受けたじいさんの光は、次第に収まっていく。
「俺は、一体どうしたんだ……?」
「きゃ、キャスパルじいさん?」
おい、微妙に被せてくんのやめろ。
狂人になっていたじいさんは、どうやら穀倉王の知り合いだったらしい。穀倉王はセーラさんだったのか。
「あれほど心の強い、キャスパルじいさんまで麻薬に侵されていたなんて」
「ふっ。認めたくないものだな、自分自身の過ちというものを……」
「おい、お前!それ以上はやめろ!」
「お、オサム君どうしたの!?」
「くそっ、その見た目でよくも……。俺が生涯で言ってみたいセリフランキングでも上位に食い込むセリフだぞ!」
「オサム君は……一体なんの話しをしているのかな?」
「……よく分からないが、助かった。礼を言う」
「東部殿、今の魔法は誰にでも使えるのだろうか?」
恐らく全員救いたいのだろう。穀倉王は縋るような目で美砂を見つめる。
「えーと、多分私にしか使えません……」
「そうか……。なら可能な限りで構わない。我が国の国民を救って頂けないだろうか」
「もちろんです!全員助けますよ!」
「おい美砂、一体何人いると思って……」
「何人でも、僕に助けられるなら助けたいよ!」
「個別に捕らえるのも合わせて何日かかると思ってんだよ。だったらとりあえず、今ある魔石に『ウィズドロウ』を付与しなよ。そしたら他の人間でも発動出来るだろ」
「それだ!流石オサム君!」
「よし、じゃあ三手に別れよう」
「三手に?」
「ああ、まずウィズドロウの魔石セットを四つ作ろう。俺とエドモンとリオンは一つずつ、レジスタンスにも一つ渡そう」
「うんうん、それで?」
「美砂はここで怪我人の回復役、エドモンとリオンは外で狂人治療の役、俺は城で魔人族をぶっ飛ばす役だな」
「ひとりで行くの!?」
「いや、当然だろ。全員救うのなんて待ってられるか、それだけで何週間かかると思ってんだよ。助けたいんだろう?」
「う、うん」
「だからといって、このまま魔人族を放っておくことなど出来ない。俺の転移魔石を狙ってるらしいからな」
「ありがとう……。転移魔石はもちろん差し上げるが、ここは穀倉地帯でな。金品などほとんどない国なのだ……。俺たちには感謝することしか出来ん……すまない……」
穀倉王が泣きそうな顔でこちらを見ているが、オッサンの泣き顔なんていらんぞ。
「別に構わないさ、仲間がやりたがってることを手伝うだけだ。そうだな、じゃあ復興して米に余裕があるなら貰おうかな」
「米?米ならうちの特産だぞ?」
「なんだって?もしかして、水国で食べた米も穀倉国のか?」
「あ、ああ……。あのおにぎりだろう?間違いなくうちの米が使われているな」
美砂と目が合い、互いに頷く。
ウィズドロウの魔石セットを速攻で済ませ、エドモンとリオンに役割を説明する。
それを聞いていた穀倉王も強さには自信があるようで、狂人の数人に囲まれても十分捌けるということだった。
この三人なら表の狂人に遅れをとることはないだろうが、一人一人がオークと同等の強さなら、その他のレジスタンスには辛いだろう。
基本は三人に動いて貰い、その他のレジスタンスは、救い終わった元狂人達を隠れ家に引きずっていく役割がいいだろう。
役割の整理も終わったため、俺は出発することにする。
「じゃあ俺は魔人族をぶっ飛ばしてくる」
「パパ、行ってらっしゃいなのです!」
「行ってらっしゃい、気をつけて!」
「お城はあまり壊さないようにしてあげてくださいね」
「頼む、この国を頼む……」
穀倉王だけやたらシリアスだが、狂人達が思ったほど大したことなかったので、仲間達は俺の心配などしてくれないようだ。別に心配して欲しい訳じゃないんだからねっ!
まあ美砂からヒールをセットした魔石も受け取ったし、これで万に一つもないと思う。まあヒール魔石を使うことなども起こりえないだろう……。
さて、俺から転移魔石を掠め盗ろうとする奴の顔でも見に行きましょうか。
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