24話 自称真なる魔人族と戦いです

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24話 自称真なる魔人族と戦いです

 俺は夜道を進み、城へ向かう。  キャスパルじいさんは元々Fランクのゴブリンと同じくらいの強さだったはずだ。それが狂人になるとCランクということは、麻薬ハイロによってランクが二つ上がるということだよな?  もし城の騎士達も同様の上がり幅なら、Aランクになるのだろうか。Aランクは確か、Bランクのオーガをソロで倒せる四人が囲んで同格……なんだよな。  いかんな、自然と口角があがってしまう。  これじゃあ戦闘狂みたいじゃないか。俺は転移魔石と米を救いに来たのであって、戦いはついでに起こるもの、目的じゃない。  門にたどり着くと、門番であろう甲冑騎士が二人、剣を握りしめこちらを見ている。  召喚された日を思い出すな。あの時は甲冑の圧迫感だけで吐きそうな思いをしたものだが。  俺はオーバーライドを発動し、一気に仕掛ける。  余裕か、甲冑騎士たちは動く気配がない。俺は向かって左にいる甲冑騎士のお腹辺りに右足で前蹴りを入れ、背中側にいる右の甲冑騎士には反転した勢いも付けた左足で回転横蹴りを入れた。  どちらも激しく城壁に叩きつけられ、腕や足が向いてはいけない方にぐにゃぐにゃと曲がり、鎧の隙間から血が零れてきた……?  ……?  わーわわわわ!待て待て待って!待って! 「ひ、『ヒール』」  使うことなどないと思っていたヒール魔石を早速使ってしまった。大丈夫か、生きているか!?  甲冑騎士が動き出したことで安堵している自分への違和感に気付いた。戦いなのに、俺は命を奪う覚悟も出来ていなかったのか……。  坊やだからだよ、キャスパルじいさんのそんな声が聞こえてきた気がする。  元騎士連中はAランクくらいの力があると思ってたけど、オーガと変わらないくらいだな。第三遺跡で初めてオーガと対峙してから訓練も続けているし、この程度なら怪我をする方が難しい。  俺は狂人とは戦うのを止め、玉座の間へ向かいながら出会った狂人には片っ端からウィズドロウ魔石を発動し、隠れ家への移動を促す。  さて、今俺の目の前には一際大きい扉がある。穀倉王の予想では、魔人エステは玉座でふんぞり返っているだろうということだったが、おそらくここだろう。  観音開きの扉を開き、中に入ると……。  く、臭い。  なんって臭いだ。なんだこの臭いは、何かが腐ってるのか? 「ようこそ、我が城へ」  うへぇ……。触手、触手がズルズルしてる。床もなんか、なんだ?まさかヌメヌメしてるのか?  俺あれ殴って倒すの?触るの? 「えーと、出来れば違うと言って欲しいんだけど、あなたがエステ・ペレグリーニさん?」 「ふはははは、絶望せよ。私が真なる魔人、エステ・ペレグリーニだ」 「そのぉ、皆んな困ってますしぃ、この国を返して欲しいんですけどぉ……」  というか戦いたくない。臭いし、汚いし、なんか触手から粘液みたいなの垂れてる……。 「私は世界を滅ぼす者だ、どうせ滅ぶものを返す必要などないだろう?」 「征服じゃなくて滅ぼす……って、無理じゃないですか?この大陸広いでしょう?」 「麻薬があれば可能だ。お前も完成薬を使ってみるか?もし適応できれば、お前を滅ぼすのは最後にしてやろう」 「完成薬?」 「ふっ、まだ出回っていない最新薬だがな。こいつは麻薬ハイロの完成系、降魔薬ハイロゲインという。こいつを飲み、身体の激しい変化に適応出来た時、全てを超える力が手に入るのだ」 「その理屈で言うと、俺も飲んで耐えきったら全てを超える力が手に入ってしまうのでは?」 「私は神に選ばれたのだ、私こそが王だ。あああ……神の声が聞こえる。滅ぼせ、全てを壊せ、と」  ダメだコイツ……早くなんとかしないと……。 「神に選ばれた?その薬だって人間が作ったものだろう?」 「神の声を理解しようとせん貴様に用はない、もう死ね」  触手が一本伸びてきて、俺の上から振り下ろされる。俺は飛び退いたが、触手に叩かれた床には大きなヒビが走る。  臭い。  足下の太い触手は目視で十本程度あり、次々と俺に向かって来る。合間合間を縫って、上半身の触手も向かって来るのだが、俺は触りたくない一心で必死に避ける。  触手の速度だけなら必死になる必要など無さそうだが、触手に空いたブツブツの穴から、何か液体が飛んでくるのだ。  うげぇ……。  いや待てジェンダーレス、そうジェンダーレスだ。  世の中、魔法少女になりたいハゲマッチョ男性だっていれば、触手になりたい男の子だっている、多様性だ。  サブカルチャーをこよなく愛する日本人だからこそ、世界に先立って多様性を飲み込まなければならないんだ……、よし来い!  床に敷いてあるレッドカーペットに触手から出た液体が触れると、『シューッ』と炭酸の弾けるような音がした。  カーペットに穴が空いているところを見ると、どうやら強酸か溶解液のようなものなのだろう。一瞬にして心が折れる。  だめだ、これはダメだろう。多様性とは違う、認められない……。  多様性として認められるのは触手系男子までだ、強酸性男子はダメだ。    俺は絶対に触りたくないので、城の壁を壊し、床を壊し、石の塊を投げて攻撃することした。  かなり強めに投げているので、石が当たった場所は穴が空いたり触手がちぎれたりするのだが、すぐに回復してしまう。 「ははははは、無駄無駄無駄無駄ァ」  触手魔人は、ちぎれた部分を回復させたそばから触手ラッシュを放ってくる。明らかに触手が増えている、三十本以上はあるぞ。  触手よりも溶解液と臭いが気になり、俺は一度距離をとった。 「おい、触手が増えてるぞ。攻撃する度に増えるとか言わないだろうな?」 「……」  うげぇ……。さっき投げた石が口元に当たったのだが、回復したと思えば口元が触手だらけになっている。  プレデターかよ、魔人族キモすぎるだろ。    触手が邪魔で喋れなくなったのだろうか。そんなことを考えていると、魔人エステのお腹が大きい口のように開いた。 「クチャクチャ、どうだ、クチャ、手もクチャ足も出ないクチャだろう」  クチャクチャうるさいからよく分かんないし、声が機械音みたいになっていて、もう嫌悪感が天元突破している。 「お前、そんな姿になって良かったのか?人間の感覚で言うと身震いする程気持ち悪いんだが」 「クチャ、そクチャれクチャ、わたしクチャ」 「あっ、聞き取りづらいんでやっぱりいいです」  俺はクチャラーな口に大きめの石を投げ破壊する。  回復した時にはまた触手が増え、今度は触手の色んな所に口が出来たみたいだ。 「「「貴様、私が話している最中に攻撃をしてくるなど無礼が過ぎるぞ。ちょこまかとスピードだけは速いようだが、そろそろ殺してやろう」」」  触手は五十本を超えているだろう。色んな所から聞こえる機械音は重なると不協和音のようで、大変不快だ。  どうするか有効打がないな。回復するよりも速く攻撃しまくれば殺せるか?いやしかし直接触れるのはなるべく避けたい。  俺は戦略を立てながら、城の壁と床を投げ続け、更に激しくなった触手と溶解液の波状攻撃を避けて回る。  いよいよ攻撃手段に使っていた壁も無くなってしまったので、今度は床を大きく砕いたのだがそれは失敗だった。  ここ二階じゃん。  床が抜けてしまい、俺と触手魔人は下に落ちるのだが、触手魔人は落下中でも攻撃を仕掛けてくる。  回避と着地を優先し、一階の広間のような所に着地すると、何か唸り声のようなものが聞こえた。  声の方を見ると……。  ドラゴンだ!ちっちゃいドラゴンみたいなのがいる!  檻の中には、モンスターをハンターするゲームに出てくる龍と同じような見た目のドラゴンが入っていた。 「「「そうだ、貴様はバラバラにしてワイバーンの餌にしてやろう」」」  ドラゴンじゃなくてワイバーンなのか。確かAランク魔物だったか?檻に入れられているところを見ると、飼われていたんだろうか? 「ギャー!ゲゲゲギャーッ!」  いや、あの触手魔人めっちゃ吠えられてるな、完全に敵対視されているだろう。ワイバーンの生態なんか知らんけど、リオンが美砂にシャーした時と明らかに同じ感じだ。 「「「貴様も逆らうというのか?」」」  檻の近くにいる触手魔人がワイバーンに攻撃しようとしているため、俺は石を投げつける。そしてワイバーンを味方に付けるため、俺は檻を壊し、縛っていた鎖をちぎることで逃してやった。 「ゲギャーッ!」  感謝でもしてくれているのだろうか。ワイバーンは吠えながら何かエネルギー砲を触手魔人に放つ。  遠距離攻撃いいなー、などと考えていたら続けてこちらにもエネルギー砲を打ってきた。  めちゃくちゃ速い!ワイバーンの放つエネルギー砲は、視認してからでは避けるのがギリギリの速度だった。  仲良くするつもりなどなく、こちらへの一発は近づくなという警告だったようで、ワイバーンは触手魔人に攻撃を仕掛けている。  俺は戦いから除外されてしまったため、魔力視を発動し、しばらく観戦しながら戦略を考えることにした。  魔力視のおかげで、あることに気づく。  あの触手魔人、魔力がほぼないぞ?身体を回復するエネルギーはどこから持ってきているんだ?それに、この臭いはやはり腐っているとしか……。  というか……あれ?魔力が込められてない。ワイバーンのエネルギー砲って魔法じゃないのか?なら一体……。  考え事をしていると、既に数百には及ぶであろう触手にワイバーンは捕まってしまい、その身体からは炭酸の弾けるような音がしている。  唸り声も出さなくなってしまったワイバーンを横目に、改めて触手魔人を見ると、出会った時よりも身体がグズグズになっているように思う。  もしかして腐ってるのは、回復するだけのエネルギーが足りなくなってきて自壊を始めている?  今度は俺の出番だ。さて……、どうやって戦おうか。
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