4話 魔法の分析と科学実験です

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4話 魔法の分析と科学実験です

 身体中の筋肉が悲鳴を上げているため、俺だけ数日間は寝て過ごすことになった。    悔しい。剣は京介より出来ず、魔法に関しては発動すらしなかった、悔しい。  二人はこの数日で城下町にも回ったようだ。それぞれ別の部屋を貰えているため、部屋にこもっていると会うことなどないのだが、二人揃って毎日報告に来てくれた。  雑貨屋には美砂のおばあちゃんが大切にしていたような魔法の杖が沢山並んでいたとか、鍛冶屋には孫六兼元みたいな日本刀が飾られていたとか、正直どうでもよかった。  魔法が使えない。逃した魚は大きい、か。  身体が痛いながらも少し動けるようになったし、あまりにも暇なので、本などが置いてあるという資料室へ案内してもらった。  資料室はうちのリビングと同じくらいの広さで、部屋の半分以上は本棚が並んでおり、その棚は本や何らかの資料などで隙間なく埋まっている。    いくつか机やテーブルも設置されており、一番大きい四人掛けサイズのテーブル席に通された。  改めて部屋を見回すと、ガラス窓が付いていない代わりに、いくつかステンドグラスが付いている。外の明かりが間接照明のように差込み幻想的な隠れ家のようだ。  それに、部屋中に本の匂いが充満しているのもいい。図書館や古本屋を好んでいたわけではなかったが、日本とそう変わらぬ空気がとても心地よく、別世界であることを忘れそうである。  ()()気が滅入りそうになったらここへ来ようと思いつつ、メイドさんから出されたお茶を一口頂いた。  気が付けば、魔法の考察が書かれた本ばかりを探してしまう。  しかし、過去の賢人達が分析したものなどは沢山あったのだが、魔法が使えない人間の記述などは一切見つからなかった。  興味深いもので言えば、現在では禁術指定されている身体強化についての記述だ。  『魔力操作が出来れば身体強化は可能だが、身体強化をすると、身体の一部がちぎれたり骨が砕け、臓物が潰れてしまう。なぜか魔力枯渇で亡くなった者もいる』  身体が耐えきれないのは分かるが、魔法を放出してないのに魔力枯渇になんてなるのか?  『なぜ?』を怠ってはいけないよ、か。  魔力を手のひらに集めて……。  そういえば、おかしくないか?  火が出る?燃料とか発火エネルギーはどこから持ってきた。水が出る?水素と酸素はどこからだ、空気中か?だとしたらどう化合物にした。風が吹く?それはもう気圧を操作しているのでは?  気になり始めたら一気に疑問が溢れてしまったが、何より一番気になるのは『回復』のヒールだ。  傷が治る?それはもはや、DNAの生成ではないのか?時間を戻しているわけではなさそうだし、イメージ力だと?過程はどうした。治ったという結果だけイメージすれば、魔力さんがDNAを生成してくれるとでも?  くそっ、歯がゆい。    なぜ俺には魔法がつかえないのか、こんなこと考えてしまうから使えないのだろうか。でも気になるじゃないか。  急いで訓練所へ向かい、訓練中の二人を見つける。 「美砂、ちょっと実験に付き合って欲しい」 「オサム君!元気になったんだね!何でも言ってよ!」 「ごめん、断ってたけどやっぱり『ヒール』をかけて貰ってもいいかな?」 「もちろんだよ。『ヒール』」  美砂の手のひらから出てきた眩い光が、スーッと俺の手足や身体を包み込んでいく。俺の身体が光っているようになっていたが、しばらくすると光は収まった。  身体を動かしながら、感覚を確かめる。   「うん、治ってる。ありがとう。魔力が減った感じはある?」 「どういたしまして、うん。少しだけ減ってる、のかな?」  俺は腹も減っていないし、魔力も減っていないな。そんなことを考えながら、魔力について仮説を立ててみた。  一つ、魔力は元素を補う力がある。二つ、魔力は多様なエネルギーに変換される。  ぶっ飛んだことを言っている自覚はある。しかし、そうでなければ火もつかないし、筋断裂の修復など説明がつかない。  そして何より重要なことは、術者がイメージした結論を叶えるために、上記二つが自動で行われている可能性が高いということだ。  いるのかい、魔力さん?  まぁひとまず仮説はこれくらいにして、化学実験といこう。 「さてと。京介、美砂、化学実験に付き合ってくれないか?」 「うん、なにか思いついたんだね?」   「いいですよ!」 「まずは、受験前の俺たちには必須である、化学の基礎についてお話しをしよう」 「うげぇ、苦手な話しの気がする」   京介はきっと文系に行くんだろうな、イケメンが凄い形相になっており、クスリとしてしまったが話しを続ける。 「まず、世の中の物質は全て、目に見えない大きさの粒子からなるのは知っていると思う。そして今回は便宜上、単体、化合物、混合物の三つに分けて話す」 「聞いたことがある気はしますね」    おい、美砂は理系だろう。   「単体は一つの元素からなるもので、酸素の『O2』とかだな。化合物は『CO2』とか『H2O』とか二種類以上の元素で構成されるものだ。最後の混合物は、空気とか海とか、複数の化合物で構成されるものだな」 「へええ、それが、何か関わってくるの?」    二人ともまだピンと来ていない様子。 「ああ。なぜか俺には出来ないが、ウォーターを唱えると水が生まれるよな?つまり『H2O』であり、化合物を生成していることになる」 「そういうことか!」    京介は少し分かってきたようだ。 「しかもこの世界の人たちは、水の化学式なんて知らない。そもそも元素も知らないのに、水という結果をイメージするだけで化合物である水を生成しているんだよ」 「確かにそう考えると不思議だね」    美砂も分かってきたようだ。 「魔法が元素自体を産んでいるのか、元素を集めて化合物にしているのかは分からないが、たしかに目の前に化合物が存在する。だからどこまで出来るか試したいんだ」 「なんか楽しそう!僕実験は大好きなんだ!」   「じゃあ俺たちは魔法で化合物を生成したらいいのか?」 「まあそんなとこだな、三種類の物質は全部試してもらおうと思う。早速やってみよう」    金属単体の生成が出来たら、もはや等価交換を超えた錬金術だな、なんてことを想像する。 「「わかった!」」 「まずは単体からいこう。魔法名はゴールド。イメージして欲しい結果は、金の延べ棒だ」 「「ゴールド!」」 「……出ない、ね。」 「出ないな、金属単体はだめなんだろうか?まあ実験だし次々いこう。魔法名はアルミニウム。イメージはアルミホイルみたいな形でいこう」 「「アルミニウム!」」 「……これもダメか、金属単体はだめなのかもしれないな。金の延べ棒ウハウハ生活は失敗だ」 「それ聞くと、ちょっと残念だね」    京介と美砂は苦笑いしている。 「なにをやっているんですの?」    俺たち三人が何かやっていることに気づき、遠巻きに見ていたエリーズ隊長がやってきた。 「少し魔法の実験をやっていまして、お邪魔でしたか?」 「そんなことはありませんわ、でも気になったので、私も見ていてよろしいですか?」 「ええ、構いませんよ。じゃあ次もいってみよう。今度は……、非金属単体は毒性が分からないな、危ないし化合物にしよう」 「化合物は水もだったよね?何がいいかな?」 「んー、じゃあ魔法名は炭酸水素ナトリウム、結果イメージは重曹、だ」 「「炭酸水素ナトリウム!」」 「……出ない」 「出たよ!」 「見せて!」    少しつまんで舐めてみると、塩気を感じることができた。 「成功だ。重曹生成魔法、炭酸水素ナトリウムだ」 「うっわ!僕めっちゃワクワクしてきたよ!」  エリーズ隊長はあんぐりと口を開け、驚いていたが我に返ったようだ。   「ま、まさか、今新しい魔法を作りましたの?」 「え?ええ、まあそういうことになりますね」 「これがどれだけ凄いことか分かっていますの!?」 「いや、まだ分からないですけど、もうちょっと検証させてください。京介、重曹って見たことある?」 「いや、掃除とかで使う?のは聞いたことあるけど、見たことはないな」 「美砂は?」 「僕は見たことあるよ!ホットケーキとか作るときに使ったこともある」  同時にピンときた。   「「「見たことのある化合物は、生成できる?」」」  なんだ?二人が見たことある化合物はなんだ、考えろ。ふと、先日予備校で聞いた内容を思い出す。 「解熱薬アスピリンって見たことないか?」 「そんなのないよ!」 「俺、あります。小さい頃飲んだこともある!」  きたっ!マジか!いけるのか?いけちゃうのか? 「京介!魔法名はアセチルサリチル酸!結果イメージはアスピリンだ」 「アセチルサリチル酸!」    手のひらに真っ白な粉が生まれた。 「飲まなきゃ分からんが、多分成功だな。解熱薬アスピリン生成魔法、アセチルサリチル酸だ」 「うわー!俺も超ドキドキしてきた!」 「次いこう、話していて思いついた。二人はドライアイスを見たことないか?」 「それなら僕も見た事ある!」   「俺は小さい時に遊んでたこともある」 「今度は少し応用編だ。化合物の生成と同時に冷却による固体への相転移が行われるはずだけど、ファイアが発動するんだ、理論的にはいける」 「ドライアイスですね」 「ああ、魔法名は冷凍二酸化炭素。結果イメージはドライアイスだ」 「「冷凍二酸化炭素!」」 「「でた!」」 「これでほぼ確定だな。直接見て、触れたことがあるような化合物は生成できる。その際、イメージの達成に必要なエネルギーも自動で生成される」 「なんか魔法のイメージが変わってきたよ」 「俺が魔法を使えれば抗生物質もいけただろうな」  最後に混合物、海や牛乳なども試してもらったが発動しなかった。おそらく純物質である化合物だけなのだろう。
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