誕生日

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 そして、バタバタと重い足音が聞こえる。その足音が玄関へ回っていくのも分かる。イツキは怖くなって立ち竦んだ。近所にドロボーが入ったって聞いたことあるし。 「あれ?イツキの靴がある。もう帰ってるのか」  玄関の辺りから聞こえてくるのは、パパの声だった。どうしてパパが家にいるんだろ? 会社じゃないの? 「イツキ? いるか?」  そのパパが、リビングにひょいと顔を出した。 「パパ!」 やっぱり 「おかえり。もう帰ってきたんだな。裏庭からトマトを取ってきたぞ」  パパの大きな手には、小さな赤いトマトとピーマンが握られている。スーパーで売られているもののようには大きくないけど、パパが裏庭で育てている野菜だ。あのちっちゃなトマトだって、でこぼこのピーマンだってパパが育てたんだ。 「パパ、会社は?」 「はは、今日はすごく早く帰ってきたんだぞ。だって、今日はイツキの誕生日だろ?」 「うん」 「だから、イツキと一緒に、ピザでも焼こうと思ってさ」 「ピザ? パパと?」 「今日は塾はお休みにしたんじゃないのか?」  ボクはうなずいた。だって、こんな日に塾なんか行かない。だって今日は特別な日だから。  パパは小麦粉にピザの生地を作り始めた。小麦粉に砂糖と塩、イースト、さらに水をを入れて、優しくこねながら、そっとボールみたいにまとめる。丸くまとめたら、おいしくするために温かいところで発酵させるんだって。  オーブンに入れると、パパが発酵モードのスイッチを入れる。じーっと眺めていると、ゆっくりゆっくりと膨らんでいく。 そして、ボクが見ているのが嫌になった頃、パパが膨らんだ生地を取り出して、今度は丸く平たく伸ばした。ぺったんこになっちゃった。 「イツキ。具をのせるぞ」  切ったトマトにピーマン。コーンにチーズ。夢中でボクたちは具をのせた。  リビングのカゴの中では、ココがうるさいくらい(さえず)っているのが聞こえる。ひとりでカゴの中にいるのが不満らしかった。  具をのせたピザの生地を温めておいたオーブンへ入れた。  あとは焼くだけだ。  生地の上でチーズがとろけていく。いい匂いが漂う。  そのとき、玄関のチャイムが鳴った。
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