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「妹の病状はどうなんですか?」  詰問調になりそうな気持を制御して、診察室の医者に安中は訊ねた。三十代の主治医が、脳のCT画像を指さした。 「先日の再検査では、手術後、梗塞の箇所は広がっていません」  画像の脳の左半分は白く、壊死していた。 「回復の見込みはあるんですか? 今後の治療は?」 「今は抗血小板剤を投与して、梗塞が発生するのを防ぎつつ、栄養補給して、意識レベルが戻るのを待つしかありません。覚醒する時間が長くなればリハビリができます」 「食事とか自分のことができるようになりますか?」 「脳には、生き残っている脳細胞が死んだ部分の機能をカバーする力がありますから、機能回復の可能性がゼロという訳ではありませんが、リハビリをやってみないとわかりません。そして、お兄さん」  医師は言葉を切った。 「もう一度脳梗塞が起きるとアウトです。今の妹さんの意思表示できない状態だと、新たな麻痺が発生しても、こちらは発見できず、その間に、脳の梗塞、壊死が生命活動を司る部分に広がると――死です」  わかっている。再度の脳梗塞を防ぐには、血液が凝固して血栓になるのを防がなくてはならない。抗血小板剤の効き目が妹の生死を左右する。 「先生、当社の抗血小板剤の新薬の試験データをご覧になりましたか?」 「ええ、医局で見せてもらいました。動物実験の結果からは、画期的というしかない。使いやすそうだし、凄いですね」 「そうでしょう。先生からも病院で臨床試験ができるよう、言ってもらえないですか?」 「それは……試験を決めるのは審査委員会なので、私はなんとも」  主治医はすまなそうに答えた。
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