4人が本棚に入れています
本棚に追加
遠い記憶
レオン
第1章―遠い記憶―
ドイツ郊外の閑静な住宅街。
一軒の家が炎を上げている。
燃え盛る炎。そして、耳に残る悲鳴のような声。
「逃げて!サイレンス。 私達はいいから。行きなさい!!」
「いやだ!!父さん!母さん!!」泣きじゃくる幼い少年。年は10歳位だろうか。
両親は自分達の子供を茂みに隠すと
「サイレンス、ここに隠れていなさい。大丈夫だから。何があっても声を出してはだめよ。」
「サイレンス、生きるんだ!負けるなよ。強く生きるんだ。」
と必死で声をかけた。
少年は、両親の必死な思いを感じ戸惑いながらも頷き、茂みへ身を潜める。
「どこだ!!サイレンス!!ここに居るのは分かっているのだっ!出てくるがいい!長き我々の闘いに終止符を打とうではないかっ!」
と長い金色の髪をなびかせた妖しい美しさを持つ男が叫ぶ。右腕には美しく装飾された鋭い刃の剣―――レイピアを握り締めている。
少年は思った。(・・・僕は、あれで殺されてしまうのかもしれない。)
そう思うと恐怖で身動きが出来なくなった。
そんな、小さな少年の瞳に自分の両親が銀髪の冷酷そうな男に切り殺されるのが映る。
「っ・・・・・・・!!」
彼は、叫びにならない叫びをあげる。その瞳には涙が溢れてくる。
体が震え「怖いようっ!」とただ彼は目を閉じて蹲り震えていた。
「レオン様、子どもの足では、そう遠くには逃れられないでしょう。このゲイヅが必ずや見つけてみせましょう。」と銀髪の男は、辺りの木や茂みを大剣で切り払っていく。
「・・・・・・。どうしよう。どうしよう!!もうすぐ、あいつが来ちゃう!」
少年は恐怖に耐えながら、ただ身を小さくしているしかなかった。
茂みを切る音が近づいてくる。
そして、「見つけたぞ!」と声がし、凄い力で少年は腕を引っ張られる。
「ひっ!」と少年は息を呑んだ。
そのとたん口を手で塞がれる。
「生きたければ、声を立てるんじゃない。」と言う声が聞こえ、少年は驚いて目を開けると視界が急に高くなった。
声の主が少年を抱きかかえて走りだす。
走りながら彼は「こちら、日本TSP隊長のマグウェルだ。異界がらみの別の事件に偶然遭遇した!生存者を1名確保。至急、ゲートを開けてそちらに送っていただきたい!」と少年の理解できない事を言っていた。
「おのれっ!!何処へ行ったのだ!」
「良い。ジェネラル。取り逃がしても、私には分かるのだ。奴の居る場所がな・・・・。必ず捉えてみせる。そして、今度こそ終わりにするのだ・・・。」というあの恐ろしい2人の会話が少年の耳から遠のいていく。
少年は(良く分からないけど・・・助かったのかな?僕・・・。)とおぼろげに感じながら意識を失った。
―――――――今度は一転して深い闇の中で、女性の声がする。
美しい金髪に透き通るような白い肌。そしてはっきりとした美しい目鼻立ちの優しそうな女性。その女性はいつも切ない笑顔をたたえ彼に言う。
「ごめんなさいね。サイレンス・・・・・・。私はレオンもあなたも愛しているの。――――だから、こうするしかなかった。許して。私を。―――優しいサイレンス。ごめんなさい。何度も何度も辛い思いを味あわせて。――――――サイレンス・・・・・・。」
あなたは、誰だ?あなたは??そして、レオンって誰なんだ?
誰なんだ?誰か僕に教えてくれ!教えてくれ!
・・・・・・・。
「―――――レンス!サイレンス。」
「んっ・・?」
「どうしたの?かなりうなされていたわ。・・・・・また、いつもの・・・夢?」
「・・・ああ。ごめん。ありがとう、瑠璃。起こしてくれて。」
「ううん。いいよ。・・・小さい頃にあんな事があったんだもん。しょうがないよ。」
「でも、もう、あれから十年も経っているのにな・・・・・・。」
「・・・・・・そう簡単に忘れられないよね。それとも、警察の仕事のストレスとか?」
「そんな事はないよ!ありがとう。・・・んっ?もう、こんな時間か。仕事に行かないと!君の親父、マグウェル隊長に怒られるな。」とサイレンスは笑ってみせた。
「お父さん、怒ると恐いから。」と瑠璃も笑った。
そう。あの殺されかかった少年――――サイレンスはあの時自分を助けてくれた隊長に引き取られ立派な青年になっていた。現在は、隊長宅のある日本に住んでいる。
そして彼が瑠璃と呼ぶ少女はマグウェル隊長の娘である。ちなみに現在、大学生である。中々活発な可愛らしいハーフの女性である。
「顔を洗ってくる。」とサイレンスはベッドから起き上がる。
「ちゃんと、朝ご飯食べていってね!母さんが作っているから!」と元気な瑠璃の声を背にしながら自分の部屋を出て、洗面所へと向かう。
顔を洗い鏡を見つめるサイレンス。彼には一つ気になる事があった。そう、自分の顔の事である。
綺麗な栗色の髪に湖のような青い瞳。整った目鼻立ち。一般的にみても彼は美しかったのだが、そんな事を気にしているのではなく、夢の中で自分の過去にいつも出てくる男―――自分を、ひどく探していた金髪の男に自分が年々似てきているように何故か感じるのだ。
しかし、実際には、あの事件の時は恐怖が先立ち、その男の顔をろくに見ることも出来なかった。それなのに似ていると感じるなんて、おかしな話だと自分でもよく分からなくなる。
それにいつも目覚めると、どういうわけか、あの男の名前を忘れてしまっている・・・。あれから、十年も経っていて今まで何も自分にはなかった。―――おそらく、自分の少年時代の両親を殺された恐怖体験のトラウマなのだろうと彼は深く考えないようにしていた。
しかしその反面、何か大切な事をわざと忘れようと自分がしているようにも思えてならなかった。「何故?こんなにひっかかるのだろう・・・・・・。」と彼は呟いていた。
最初のコメントを投稿しよう!