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 新宿歌舞伎町は深夜0時を回っても人通りは絶えない。  安藤が東口アルタ前の植え込みの陰に立つと、人ごみに紛れて黒いジャケットを羽織った男が近寄ってきた。夜だというのにサングラスをかけ、白いマスクをして、コンパクトなリュックを背負っている。  男のサングラスの奥から親しげな視線を感じたが、安藤は笑顔を浮かべるようなことはしなかった。ただ無言でうなずいただけ。男の名前は田母神昇(たぼがみのぼる)といった。安藤と同類の男である。元汚職刑事。暴力団に捜査情報を流し、それがバレて南米コロンビアに逃亡、五年後に日本に戻ってきた。現在はエスニック系の雑貨販売を手掛けている。安藤は田母神を仕事のパートナーにしていた。  二人歩きだした。  たどり着いたのは新宿御苑に近い雑居ビルだった。居酒屋やラーメン屋が入っている飲食店ビルだが、風営法のからみもあって時間外の営業はしておらず、看板のライトだけが点いている。その雑居ビルの7階に今回のターゲット「S&クラブ」があったが、安藤たちは素通りし、ゲイマッサージ店の妖しげなイルミネーションがともった小ぶりなビル陰の路地へ入っていく。路地の先は行き止まりになっていて、そこは先ほどの雑居ビルの裏側だった。青白い街灯が雑居ビルの非常階段をぼんやりと照らしている。安藤は目出し帽をかぶって顔を覆うと、今度は上着のポケットから38口径拳銃を取りだした。そのまま先陣を切って非常階段を静かに駆け上った。田母神もあとに続いた。  7階の踊り場でいったん止まり、様子をうかがう。非常口ドアの防犯カメラの動作状況を確認すると、やはり動作中だった。 「想定内、想定内。ふふん」  田母神が防犯カメラに向けてスプレー缶を噴霧した。  安藤はドアのノブ手を伸ばす。案の定、施錠されている。これも想定内。予め、若林美樹が作っておいてくれた合鍵を鍵穴に入れると、あっけなく開いてフロアに出た。薄暗い明りに照らされたフロアは静まりかえっている。    
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