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 S&クラブの表向きは会員制高級クラブだが、実態はカード専門の違法カジノだった。安藤と田母神はもちろんクラブの客ではない。クラブの飲食係をしていた若山美樹の依頼を受けて、カジノの売り上げ金を強奪しに来たのだ。美樹からは店内の従業員の警備シフト、金庫の場所などを聞いていた。ひそかに撮影した店内の画像も受け取っていた。  ブラックジャックとバカラの大きなテーブルが四つある。カジノが開催されるのは水曜日と金曜日。チップと札束は支配人の鷺山聯のテーブルに置かれ、ボーイに扮した手下がそれらを客に配分する。  普段はカタギの金持ち連中の秘密の遊び場だが、本日だけは詐欺集団の大幹部や半ぐれグループのリーダーたちのイベントに変更されていた。億単位が動くという。警備も厳重だ。警察の急襲を想定し、証拠隠滅をはかる訓練もされているらしい。だが安藤たちにとって、そんなことは関係なかった。  安藤は来訪者用のボタンを押した。顔を隠した怪しい二人組が防犯カメラに映っているはずだから、簡単には開かないだろう。だから、何度も何度も押す。中にいる人間がいら立ち、辛抱しきれなくなるまで。我慢比べだ。我慢できなくなった奴は、それでおしまいだ。ピンポン、ピンポン、ピンポン、ピンポン……  ついに、施錠の外れる音がした。 「るせえぞ! なんだ、てめえら!」  いかつい顔立ちの男がドアを開けた。 「どうも、どうも。夜分すんません」  田母神はとぼけた声で頭を下げると同時に、隠し持っていたボウイナイフを一閃させた。応対に出た男はその場に崩れ落ちた。安藤はすぐに後ろ手でドアを閉めた。二人目の用心棒が現れ身構えたが、安藤は銃の引金を引いた。カジノは完全防音になっているから銃声は外まで響かないはずだ。しかも7階という立地条件と夜でも静まらない都会の騒音でかき消されることも、安藤は計算済みだった。用心棒は心臓に直撃弾を食らって即死した。俺もくずだが、ここに集まってる連中もヒトの生き血を啜るダニだ。安東は容赦ない視線を彼らに向けた。 「よし、お前たち。パーティーは終わりだ! じっとしてろ!」  安藤は銃を半円形に描きながら大声で怒鳴った。  カードテーブルの周りには詐欺グループや半ぐれ集団の客たちが大勢いて、拳銃を手にした安藤たちを見とめると、目を丸くして凍りついた。  支配人の鷺山がバーカウンターの向こうで顔をひきつらせたが、それはほんの一瞬で、別室にいた手下たちが金属バットを手にしてなだれこんできた。  
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