red sight

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red sight

 彼は肩に銃を添えたまま、まるで何事もなかったかのように、身体を室内に引っ込め始めた。窓を閉められてしまうと思い、私は急いで立ち上がった。  待ってって呼びかけようとして、部屋にいるパパのことが頭をよぎる。  彼は今、誰にも見られたらいけない。  私は声を出すのをやめて、辺りを見回す。どこかのベランダに、不審な気配を察知して様子を見に出てきた人影がないのを確かめてから、彼の部屋へ近づくことを試みた。  雨が顔にパラパラと当たる。霧雨よりは強く、土砂降りというほどではない。  そうか。涙だと思ったけど、雨の雫だったのかもしれない。  ここはアパートのいちばん上の四階で、屋根になるものがない。窓から顔を出せば、当然雨に濡れる。大の大人が、ましてや男の人が、そんなに簡単に泣くわけがない。  手の甲で拭っても拭っても顔を濡らす、きりがない雨をうっとうしく思いながら、ベランダの隣との境に足を引っかける。冬の雨は冷たく、身体の動きを鈍らせる。下を見ないようにして、どうにか乗り越えた。  我ながら正気と思えない。  が本当に本物の武器だとすれば、誰もが寝静まる真夜中に、人目を忍ぶようにして、意味もなく発砲したわけじゃないだろう。標的があったはずだ。あの赤い光は、それを定めるためのものだろうから。  犯罪。  それを目撃した私は、彼にとって厄介な存在に違いなく、対面すればとたんに暴力を振るわれたり、命を奪われたりする可能性がある。  それでも、私は彼を追いかけずにいられなかった。
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