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「しけた面してるんじゃねぇよ! 俺がこんなに楽しい気分だっていうのに!」
パパは怒鳴りながら、ザッと椅子から立ち上がった。
シチューを拭っている暇も、火傷が痛いと泣いている暇もない。逃げなければ。
パパはテーブルを乗り越え、はずみで落ちた食器がガラガラ、ガシャンと騒ぎ立てる。私はまた背中を向けてしまい、パパが後頭部の髪を乱暴に掴みかけたのを、頭をぶんぶん振って蹴散らした。
「気づいてるんだぞ、カーペットがまだ汚れているんだよ! バカな上に掃除もまともに出来ねぇのか、お前は! 次は容赦しないって言ったよなぁ!」
ほとんど這うようにして、私は窓ガラスに近づいた。カーテンを翻して、隙間に指を差し込んだ。無我夢中。こんな時の私はいつでも無我夢中だ。考えている余裕なんてない。
「待ちやがれ! てめぇ!」
ベランダに出ると、隣の部屋との境まで四つん這いで行って、エアコンの室外機の影に身を潜めた。私は痩せていてちびっこいから、大した大きい物じゃなくても、その影にわりとすんなり隠れられる。自分のことを初めて幸運だと思った。
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