red sight

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 辿り着いたそこは、我が家と同じくらい掃除が行き届いていなかった。今夜は雨が降っているからさらに最悪で、水気を含んだ土や埃が、ねとねとと気持ち悪く足の裏にまとわりついた。  危険を冒してまでやってきたのに、窓はやっぱり閉められてしまっていた。鍵もかけられている。カーテンまで引かれている。白い点々が、黒っぽい色の生地に描かれたカーテン。夜空に舞う綿雪みたいだ。  ただ、厚みがある生地は、室内の様子こそ窺わせないけれど、蛍光灯が点いていることは教えてくれていた。明かりを消さないところを見ると、彼は私の出方を待っているのかもしれない。  私はこぶしを作って、濡れたガラス窓を叩いた。かじかんだ手で何度も何度も叩いた。  お願い。開けて。開けて。ここを開けて。  吐き出される息は白く、粒子が粗い。切りっぱなしの前髪から、雨だれがいくつも垂れる。ニットのパーカーもジーンズも、雨を吸って冷たくずっしりと重たかった。  やっぱり無理なのか。  そう諦めかけた時、カーテンの向こう側にゆらりと細い影が揺れた。  間もなく長い人差し指が、ドット模様の生地をそっとめくる。三角形の隙間から、見覚えのある眼差しが私を見下ろす。目が合った。 「あ……」  次の瞬間、カラカラと窓が開き、力強い腕が私を中に引き入れた。
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