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ギターの音色が聞こえ始めるのが、明るい時間であれば、私はいつもベランダに出た。
今日は大家さんから貰ったリンゴがある。それをキッチンの戸棚から持ち出してきて、錆びた柵の間から、両足をぶら下げるようにして座る。昼ごはんの代わりと丸かじりしたリンゴの酸っぱさに、顔をしかめながら、私はその音色に耳を傾けた。
ジーンズから飛び出している裸足の指先に、冬の風が冷たい。
フルーツは身体を冷やすのよって、昔ママが言っていた。
どうだっていい、そんなこと。
注意してくれるママはもういないし、身体が冷えて風邪を引いて、うんと高い熱が出て、そのまま重い病気に罹って死んでしまえるなら、それもいいかなって思う。
ここでの暮らしにも十三年ほどの人生にも、ちっとも未練なんてない。
だけど、もし本当に死んでしまって、温かな、でも、どこか寂しい、顔も知らない隣人が弾くギターのメロディが聞けなくなるのだけは、ほんの少し残念。
なぜだか、そう感じる。
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