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storm
それが始まるのは、いつでも唐突だ。
前触れがなくて、まるで直下型の地震のようだと思う。
真夏の夕立が来る直前、じわじわと空に広がる黒い雲のように、何か巨大な飛行物体が空を覆い尽くしたのかと、どきっとして見上げてしまうほど、わかりやすければいい。怪しいと感じたら、来るぞとわかったら、小柄な私はきっとすばしっこく身を隠せるのに。それから少しでも遠くへ逃げられるのに。
「このクソガキがあ!」
アルミ製の灰皿が投げ飛ばされて、黒くて苦くてベタベタした汁と吸い殻が、色褪せたカーペットの上に散らばる。バッファローのように荒々しい足がテーブルを蹴飛ばすと、雷鳴のような音を立てて引っくり返った。
今回は夕飯を食べ終えた直後だった。
理由はまったくわからない。
もう何度も経験していることなのに、そのたび私は怯んでしまう。恐怖で身体がコンクリートのように固まってしまう。
それでも、私の中の防衛本能がなんとか私を奮い立たせ、震える足で立ち上がった。
逃げろ、逃げろ。耳のすぐ近くで、誰かの声と自分の心臓の音が交互に聞こえる。
でも、学習能力のない私はうっかり背中を向けてしまい、後ろから髪を鷲掴みにされる。ブチブチと根元から髪を引っこ抜かれる音が、頭の中にダイレクトに響いた。あまりの痛みに涙が零れる。
「――――痛い! お願い、やめてパパ!」
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