storm

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 だけど、パパは手を緩めてくれるどころか、もう片方の手も伸ばしてきた。私の細い腕を掴んで身体を吊し上げるから、パパの手の爪が鋭い猛禽類の爪みたいに肌に食い込んだ。  かかとが浮かび上がる。脇腹の皮膚が引きちぎれそうなくらい伸び切る。  天井に向かって広げた手のひらがビリビリと痺れてきた頃、パパはようやく髪の毛から手を放し、そうかと思うと、その手をグーにして、わたしの腰の軟弱なところを思いきり殴ってきた。  目の前が白くなり、息が止まる。  すぐに酸っぱい胃液が喉をせり上がってきて、吐いたらもっと殴られると、ぐっと堪えた。 「いつも言ってんだろうが! 舐めた目で見るんじゃねぇよ! 俺はな、お前のその目が(でぇ)(きれ)ぇなんだよ!」  舐めた目で見た覚えなんてない。でも、反抗しても無駄だ。反抗したら、死ぬほど殴られるだけ。一発で死んでしまえるならいいけど、怒り出したパパはそんなふうに私を楽にしない。ひたすら苦しむ時間が待っている。  パパがようやく解放してくれたので、私は激しく咳き込みながらカーペットに倒れ伏した。その頭を汚い靴下で踏みつけられる。  頬をくっつけたすぐそばに、つんと苦々しい黒いシミが出来ていた。私の中に、それと同じ色をした醜いものが、音もなく広がっていくのを感じた。 「またあんな目で見やがったら、次は容赦しねぇからな」  髪の毛にニコチン混じりの唾を吐きかけて、パパは部屋を出て行った。
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