devil

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*****  カーペットについたシミは、昨日お風呂に入る前にたくさんこすったのに、結局落ちなかった。自宅に入る直前にそれを思い出した私は、急に憂鬱になった。  今のところはパパに気づかれていないようだけど、時間の問題だ。見つかれば、それはきっと私を殴る理由になる。どうやったらうまく誤魔化せるだろう。  玄関のドアに背中を押しつけ、胸に大きな紙袋を抱えたまま、ずるずるとしゃがみこむ。袋から菓子パンを取り出すと、包装を破り、その場でむしゃむしゃと食べた。今日の私のお昼ごはんだ。食べながら、いい方法はないかと考えた。  隣の部屋の扉が開いたのは、それから間もなくのこと。  室内から出てきたのは、背がすらりと高い男の人だった。パパより若い。膝小僧まで隠れる、薄手の黒いロングコート。黒くてゴツいブーツ。頭には(つば)の大きな黒い帽子を被り、長方形の、黒いピカピカした楽器ケースみたいなものを肩に背負っていた。首元に巻いたマフラーだけが、白く浮いて目立っている。  全身、黒ずくめだ。悪魔みたい。  だけど、きっと本物の悪魔は、こんなに清潔な印象じゃないだろうなって思う。
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