devil

4/4
前へ
/248ページ
次へ
 私に気づくと、彼は穏やかに笑いかけてきた。 「こんにちは」 「……こんにちは」  私は、ぼそぼそとしたパン屑を口につけたまま、返事をした。  首を傾けて、彼が出てきたドアの中を窺ってみる。続けて誰かが出てくる気配も、中に人が待っている気配もしない。背負っているケースはおそらく楽器を入れるための物だろうし、この若い男の人が、しょっちゅう聞こえてくるギターの音の(ぬし)に違いない。  黒い男の人は、ドアを閉め、静かに背中を向けると、廊下の突き当たりの階段を下りて行った。  初めて会った隣人は、甘く柔らかい眼差しと、透き通った声をしていた。
/248ページ

最初のコメントを投稿しよう!

16人が本棚に入れています
本棚に追加