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私に気づくと、彼は穏やかに笑いかけてきた。
「こんにちは」
「……こんにちは」
私は、ぼそぼそとしたパン屑を口につけたまま、返事をした。
首を傾けて、彼が出てきたドアの中を窺ってみる。続けて誰かが出てくる気配も、中に人が待っている気配もしない。背負っているケースはおそらく楽器を入れるための物だろうし、この若い男の人が、しょっちゅう聞こえてくるギターの音の主に違いない。
黒い男の人は、ドアを閉め、静かに背中を向けると、廊下の突き当たりの階段を下りて行った。
初めて会った隣人は、甘く柔らかい眼差しと、透き通った声をしていた。
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