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13話
斎藤求三郎、野口智雄など次々と隊士らは斃れ戦況は大きく変化しつつあった。
「伴雄さん!もはや退くは出来ん、一気に犠牲に構わず斬り込むほかありませぬ!」
加屋は怒声を上げた。
額に汗が滲み、手や体は鮮血を受け赤く染まったが気にとめず、同胞の屍を踏み越え彼は進む事を進言した。
「ああ、我等は神兵じゃ!何ら恐れるものもなし!只管進むのみだ!」
太田黒も同じく赤にまみれた衣を振り払い深く頷くや、剣先を城に向け突撃を続ける様号令を出したのである。
本隊は合流し、激戦を二の丸で繰り広げた。
一時かそれ以上になるだろうか、敬神党と鎮西鎮台軍の攻防は未だ止まずであった。静かな筈の夜に、轟音と怒声が交差する熊本城内。激しい銃声と鍔迫り合い、金属音―・・・
血と肉が飛び散り地を染める様は戦の激しさを物語っていた。
「前進せよ!ここより切崩せ!」
加屋は声を上げ、地の滴る両刀を下げて敵陣を睨みながら、指揮を執る。隊士らは副将たる人物の声を頼っては、それを目指して刃を取り走り寄る。その姿を捉えたものがあった。
鎮台軍の将校である。彼は、戦況を後方より広く見渡さんと目を四方に向け戦の勝機を探っていたのである。
(指揮を執っておるのは・・・貴奴か。あれを叩けば緒戦は烏合の衆、士気は衰えるだろう)
この将校こそ、本城二の丸に駆けつけた与倉聯隊長である。
彼は、近隣商屋より弾薬を掻き集めると、更に小銃部隊を強化させ一層に士気を高める事に務めた。
部下に攻撃を緩めず継続させる中、自身は実に冷静に戦況の見極めに当たったのである。
「あの指揮する男を斃せ。恐らく賊軍の将であろうが」
与倉隊長の命令により、幾人かの砲兵は照準を一所に向けるや、一斉射撃を開始。
多くの隊士らが斃れる中、加屋は怒りを露に更に斬り出そうと刃を身構えたその時。
腹部に何かが突き刺した様な、痛みを感じたのである。
視線を僅かに下げ刃を握ったまま、彼は手を痛む箇所へと添えると、ヌルリと生暖かいものが触れる。見ると銃弾がの腹部を破って貫き、そこから大量に血が滴っていた。
加屋は激高し、視線を戻すとギッときつく敵陣を睨み付けた。
「おのれ・・・!」
加屋は再び両刀握り締めて眼前の営兵を斬り倒し、更に刃を振るわんとしたその時、更なる銃弾が発砲され、腹部急所に二発の被弾。
視界は大きくゆれ、喉の奥がカッと熱く咽返る。加屋は二刀をしっかり手に握り締めたまま、最期を悟るや「・・・弓矢八幡」と叫び、身体を支える事もまま成らぬ様でガクリと膝をつき、前のめりに斃れこむ。
「ああ・・・加屋先生!」
隊士の今村栄太郎が近寄って彼を揺さぶるが、もはや何も応える事は無かったのである。
加屋に縋り、一時刃を下ろした今村を狙っての銃撃は、戦場で無防備とも言えるその身体を容赦なく貫き若い命は奪われ、身体は加屋に折り重なる様にどさりと崩れ落ちた。
敬神党一党は、斎藤求三郎長老に始まり、副将の加屋霽堅を失っても尚、将帥たる太田黒の元、士気を衰えさせることなく、屍を超え、前進するのであった。
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