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こんな僕でも、まだ生きていたいから。立ち上がろう。ここで過去を引きずってもどうもならないから。少しずつ顔をあげていこう。僕はもう一度眩しい朝日を見つめた。
そう意を決してベランダから出ようとした時、僕の視線はある「物」に止まる。思わず「えっ」という声を上げた後、僕の頭の中では疑問符が数え切れない程浮かび上がった。
そこには何故か赤ちゃんの顔くらいある大きさの卵が一つベランダの隅っこに置かれていた。
さっき洗い流したばかりの薄汚れたパレットに違う色の絵の具がまた付く。好奇心や不安、色々なことが脳裏によぎったが、まずはこれをどうしたらいいか僕は冷静になって数秒間黙考した。その結果、とりあえずこんなところに置いておくのも気味が悪いので、持ち上げてみたところ意外とそんなに重くなかったので、ベランダを出て居間に置いておくことにした。
何故誰があんなところに?という疑問があったが、もしかしたら、このくらいの卵を産む鳥が巣を作って置いてあっただけかもしれない。ヒナの卵だったら、動物園などで保護してもらおう。そう思った僕はそれっきり卵のことについては考えなくなっていた。
あの日まではー
卵を棚に置いた日から五日目。
「今日遅くなっちゃったな」
仕事から帰宅して今日はいつもより遅く家に着いた僕は、靴を脱いで居間に行こうとした時ー
「ドタドタ」という何かが落ちる音が家中に響いた。「え?」僕は訝しげに居間のドアを開けるとそこにはー
「やぁ!創くん!」
あの卵が居間のちゃぶ台に立って喋っていた。
「うわぁ!」
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