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エッグの中身は因果応報
朝、いつも通りに僕は起きて朝食を作る。出来上がったら、テーブルに置いて椅子に座りテレビの電源をつけた。
「先月、○○研究所で殺人事件がありました。犯人は今だ逃走中で警察は行方を追っています。」
この生活にようやく慣れてきた僕は一番見たくなかったニュースを見てしまい、パンを口に運ぼうとしていた手が止まる。そして現実から逃れようとするように僕はテレビの電源を切った。
僕の兄は化学者で努力家だった。すごい才能を持っていた彼が……殺されてしまったなんて今でも夢を見ているような気分になる。全部全部なかった出来事のように思えてしまうのだ。
「……なんでだよ、兄ちゃん」
僕は拳に力を入れてうなだれる。どうしようもないこの気持ちを吐き出せないことが一番苦しかった。辛い、悲しいという気持ちがぐちゃぐちゃの絵の具となって、黒い黒い暗闇の色を作り、真っ白なパレットにめいいっぱいにそれが付く。
僕は大人になったばかりだ。これから先、一人で生きていかなれければいけない。どんなに苦しいことがあっても立ち向かって乗り越えなければいけない。でもそんな自分の姿をイメージしろと言われたら何も思い浮かぶことが出来ない。つまり、自分は苦しいことがあると、悲嘆にくれたまま乗り越えられず、逃げてばかりの臆病者なのだ。母は病気で亡くなり、父は何処かに行ってしまった。そしたら祖母のところに行くのが正解なのかもしれない。でも、やっぱり支えてもらうのだけは避けたい。僕なんかに構わず残りの人生を幸せにありのままに生きてほしいから。せめて、そうせめて………
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