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砂利や捨てられた空き缶を踏みしめるブーツの音に治子が気づいたときには遅かった。
しのぶは治子のフェイス・ガードに左手を当てて呼吸をふさぐ仕草をし、右手でラバー製のナイフを首筋に当てていた。
「終了! タイムは?」
しのぶの質問に小佐野隊長が38秒です、と答える。
しのぶは治子の口元に当てた手を外して、
──本気でやってるの!? 早すぎる! と憤慨した。
それに、としのぶ。ナイフの持ち方からレクチャーするしかないようね……まず、順手で持っちゃだめ、わたしの手を見て、そうそう……逆手で構えるの、後ろからなら。そして今はしなかったけど、ナイフキルを確実に行うには、まず口をふさぎ、そこから右逆手のナイフの刃を上にしてお腹に二、三回突き立てて、そしてとどめに頸動脈を切り裂く……お腹を刺すとわかるけれど、意外とすんなり刃がめり込んで、あっけないわよ──。
「はい、わかりました」
どこがどうわかったの!? と最初は樫村しのぶも強い言い方をしていたものの、治子もだんだんとコツを飲み込めて、ある程度はスキルアップできたようだった。しのぶに仮想ナイフキルされるまでの時間が長くなってゆく。
しかし、まだ勝てなかった。
ちょっと休憩入れましょう──これは今必要な情報かわからないけれど──としのぶ。
重装歩兵っているわよね。
「ええ、何度か戦ったことが」
「重装歩兵もナイフキルできるのよ、驚きでしょ」
本当ですか!? と治子、薫、そして椿にとろが驚いた。とくに椿にとろはいろいろと重装歩兵には困っていたので喜んでいた。だが、この件については本稿では触れない。別稿にて取り上げる。
「要するに、重装歩兵とはいっても中身は人間よ。そして、動く以上、関節の箇所が可動しなければならない。可動する装甲の隙間にナイフを突き立てるのよ」
治子だけではなく、〈アンティセプティック・チーム〉の全員がしのぶのちょっとした講義に耳を傾けている。
「さあ、再開しましょうか」
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