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 はい、と全員が唱和するように先輩に返事をした。  それにしても、治子の生存力は伸びたけれども、まだしのぶに一度も勝ったことはない。治子もけっこう負けず嫌いだったので、意地でもしのぶに一度は勝ちたかった。  幾度となく繰り返されるしのぶの勝利。    「もっと本気で来なさいよ!」  「本気です! これでも本気でやっているんです、樫村先輩に勝ちたくて」  訓練の合間に、両者とも睨み合った。泣いてはいけない、と治子は必死に涙を流さないように我慢した。意志の力で……。  いいことを教えてあげる、としのぶ──人間の有効視野は自分が思っているほど広くない。とくに集中すると視野は左右の眼で30度ほどに狭窄(きょうさく)してしまう。本来の有効視野に気をつけるだけでもだいぶちがうの。    それに、しのぶがヘルメットからわずかにのぞく、さらさらな治子のピンクの髪に触れながら言う。  「髪色が目立つのはいかんともし(がた)いわね。──どうしよう、次が最後のトレーニングにしましょうか?」  はい、と治子。  治子も少し落ち着いて、地球の磁場を読み取れる、しのぶにはない、狐の特性を思い出していた。普通のヒト科であるしのぶより、知覚情報のインプットは狐ハーフのほうが上のはずだ。    「演習、はじめます」  コンテナが無造作に放置された訓練施設に小佐野隊長の声が響いた。  どこにしのぶがいるかわからないながらも、ここにはいない、という確信めいたものが治子のなかで(きざ)してきた。  もし、フェイス・ガードがなければ、〈アンティセプティック・チーム〉のほかの隊員は、へたな軍事行動のときにも見せないような来栖治子の鬼神めいた表情をモニタリングできたろう。  すでに経過時間は最長記録を超えている。  治子はしのぶの背後をとった。そのまましのぶはコンテナのなかへと入っていく。  治子は気づいた。コンテナから出たときを狙っているのだと。コンテナのもう片方の扉から出たところを狙っているに違いない。  ──いやな予兆。そう誘っているのではないか。  じつはコンテナの途中でターンしているのかもしれない……治子は振り向く。
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