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それは酸鼻の極みだったわね──精神保健福祉士の藤沢がずーっとしのぶの独白を傾聴してくれていた。
「そんな、思い出すのも苛烈なことがあったのね……その夢、最近になってまた視る頻度が高くなったのかしら?」
そんなこともないです──ただ、今日、昼間ちょっと嫌なことがあって……それで眠れなかったんです。
しのぶは、春日井麻里の件も話した。
「あの子は凝りないわね……」
と藤沢が嘆いた。入退院を繰り返してはいろいろな子の血を吸っている。
「わたしもリスカ、オーヴァ・ドーズで何度も入院させられてますから藤沢さんの言葉は胸に痛いです……でも、もうリスカもオーヴァ・ドーズもやりません、この入院が最後にしたいです!」
あなたならできるわ、と藤沢。
──ありがとうございます。
「そろそろ眠りますか?」
──眠れないかもだけど、眼をつぶって横になってます。
「では、『ごきげんよう』かしら」
そうですね、ごきげんよう!
三時半過ぎ。しのぶは思春期病棟の廊下を歩きながら、明日の午後の用事を記憶から取り出す。自分にはまだなにかできるんだという希望が、空調の音に混じり合っている。
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