わたしと、新幹線と、人工衛星。

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 友達たちは「言い返した方がいいよ。咲良ちゃんが黙っているから調子にのるんだから」と忠告してくれるが、男子と言い合いするなんてとてもじゃないが怖くてできない。  自分の名前がもっと地味な名前だったらこんな思いも余計な心配もしなくてよかったのに、と桜を見る度にそんな思いが心の中に過る。  自己紹介もそこそこに新しい教科書が配られるとその日は解散となった。午前授業なのは始業式の特権だ。なんなら始業式と言わずにずっと午前授業にしてくれてもいいくらいだ。そうすれば男子たちに馬鹿にされることも少なくなるだろう。  不幸なことに今年のクラスにはわたしのことを「ネクラ」と馬鹿にしてきた男子もいる。またからかってくることは火を見るより明らかだ。  川沿いの通学路を歩いて帰った。その道には川に沿うようにして桜並木が続いている。満開の桜が遠くまで続く光景は壮観で、近所でも有名なお花見スポットだ。  たまたま通りかかった老夫婦が桜を見上げて「綺麗だね」と会話しているのを横目にわたしはそのピンクの花びらを睨みつけた。
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