王城への招待状

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王城への招待状

例の夜会から一夜明けた今日、お昼過ぎから家中が騒がしい。 「お父様、こんなに慌ただしくしてどうしたんですか?」 あまりの騒がしさに読書に集中できず、お父様に理由を聞いた。 「い、今からアインツ殿下がいらっしゃるそうだ! ベロニカ、至急着替えて…………あ、ドミニクにも言っておいてくれ!」 忙しそうに答えて、慌ててその場を去って行った。 ………はぁ!? 私は走らない程度に急いでドミニクの部屋に入る。 「お姉様? 慌ただしいけどどうかしたの?」 呑気に話しかけてくるドミニクに、心の中で空気を読め、と突っ込んだ。 ―――が、先程私もお父様に同じようなことを聞いたからと反省した。 「これからアインツ殿下がいらっしゃるそうなので、すぐに着替えて客間に来い、とお父様からの伝言です」 「え! 私だけ?」 「私もよ。とりあえず、いつ来るか分からないから早く着替えて客間に行きなさいよ?」 「は、はい!」 テンパって着替えを始めたドミニクだが、あちこちにぶつけて怪我をしそうな勢いだ。 「………ドミ落ち着いて。怪我をしたまま行ったら元も子もないでしょ」 私に注意されたドミニクは、やっと落ち着いた。 だが、もうすでに時遅く、右頬に怪我をしている。 「………ドミ、おいで」 私が声を掛けると、ドミニクはに駆け寄ってきた。 ドミニクをベッドに座らせて私は隣の自分の部屋からすぐに救急箱を持ってきた。 「せっかくの可愛い顔が怪我で台無しじゃない。これでも可愛いけど、やっぱりドミは素が一番可愛いわ」 消毒をして、大きめの白い絆創膏を貼る。 「ふふっ。お姉様ありがとうございます。私も、綺麗で美人なお姉様が大好きです」 ドミニクは満面の笑みで私にギュッ、と抱き着いた。 「ん。もう慌てて怪我しないでね。私も準備があるからもう行くわね」 可愛いドミニクを永遠に見ていたくなったが、時間の問題もあり、私はドミニクの部屋を出て自分の部屋へと戻った。 「ベロニカお嬢様、今日は私が………」 侍女のアイサが部屋で待ち構えていた。 ギラリと光る目が地味に怖い。 「お嬢様は“可愛い”というより“美人”“綺麗”というタイプの女性なので、お上品な可愛さが演出される服がいいですね。いや、でも軍服コスプレというのもありですね」 もうなんでもいいから早くしてくれ。 「よしっ、決めた!」 元気に宣言したアイサにすべてを任せること約10分。 終わった………のはいいのだけれど。 本当に軍服コスプレにしやがった。 軍服と言っても、下は太腿の半分ほどの長さのミニスカートだ。 中には黒のタートルネックのインナーを着せられた。 サイドの高い位置でお団子を作って黒いリボンでしばり、残った髪はゆるりとしたウェーブをかけて後ろに垂らしている。 前髪の左側の方にはヘアピンを3本つけられた。 白の短い(くるぶし丈の)靴下に軍服と同じ色のヒールブーツ。 「アイサ、流石にこれは……………」 てかまず大前提になんであるのよ 「いいえ。これでいいんです。どうせ今日はドミニク様を誘いに来られたのですから、少しくらい主張したってなんにもありません」 問題大アリだよ、と思うも言うとあとの絡みがめんどくさいのでやめておいた。 「絶対にそれで行ってくださいよ、ベロニカお嬢様」 アイサのその言葉に私はグッ、と言葉をつまらせて、結局そのまま部屋を出た。 客間に入ろうと扉に手をかけると、中からお父様と、別の男性の話し声が聞こえた。 「そうだろう、ドミニク?」 と、ドミニクに話を振っているあたりから考えるに、ドミニクと殿下はもういるらしい。 コンコン、とノックをして客間に入る。 「失礼します」 「おい、ベロニカ。遅かったじゃないk―――」 私に注意をしようとしたお父様が私を見て言葉を失った。 ドミニクが私の方を見る。 「お姉様! 今日も麗しいですね!」 殿下が私の方を見る。 「………っ!? ベロニカ嬢、は……!」 「………軍服コスプレ、だそうです」 殿下の顔が真っ赤に染まる。 「女性なのにそんなに脚を出して………!」 ですよね、そこめっちゃ気になりますよね。 だって私もめっちゃアイサに突っ込みたいから。 「気にしないでください。侍女の趣味ですので。………で、今日はどのようなご要件で、殿下?」 殿下の言葉を流してして殿下の向いのソファに腰を掛ける。 「そこは気にしてほしいんだけど、ベロニカ嬢」 「……………」 私が沈黙を貫いていると、殿下ははぁ、と溜め息をついて、まだほんのりと赤い顔を私達の方に向けて話し始めた。 「私は、昨夜の夜会でドミニク嬢とお話をして、もっと親交を深めたいと思いました」 「………はい」 ドミニクが気まずそうに頷く。 「明日、ドミニク嬢を城に招きたいと思い、手紙よりも確実に耳に入る方法として訪問してきました」 「………………は、い」 ドミニクはさらに気まずそうに頷く。 「どうか、来ていただけないでしょうか?」 ドミニクはなかなか頷かなかった。 「ドミ、せっかくのお誘いですし、行ったらどう?」 そう言うと、ドミニクは私と殿下の顔を交互に見た。 「お姉様が、一緒でいいのなら、いいです」 ………………何故!? 「いいですよ。もともと、ドミニク嬢が頷かないようでしたらそのつもりだったので」 殿下も何故!? 「ベロニカ嬢もそれでいいですか?」 「………本意ではないですが、ドミがそう望むのなら謹んでお受け致します」 そう言うと、殿下は満足そうに笑って私達にそれぞれ手紙を渡した。 「それは王城への招待状です。いくら私が招いていても、招待状がないと城には入れないので忘れずに」 「ありがとうございます、殿下。何時頃に伺えばよろしいでしょうか?」 「そうだね………10時頃に来てもらえると都合が良い」 「承知いたしました。では、明日の10時頃に招待状を持ってドミと伺います」 「うん、よろしくね。ベロニカ嬢。では、今日はこの辺でお暇するよ」 殿下はソファから立ち上がると、客間から出ていった。 とりあえずは一件落着、かな? ドミニクは青ざめた様子で座り込んでいた。 ちなみにお父様は、終始固まっていた。
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