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過去一大変なお茶会
翌日、第二王子であるアインツ殿下から渡された招待状を手に、私とドミニクは王城へと向かっていた。
今日もアイサに押し切られて昨日と同じ軍服コスプレの上に黒のロングコートを羽織っている。
ドミニクは私の肩に頭を預けて、隣ですやすやと眠っている。
しばらくして馬車が王城に着いた。
私はドミニクを起こして下車すると、門番に招待状を見せて王城へ続く門をくぐった。
時刻は9:50
ほぼ予定通りだ。
あとからドミニクが走って追いついてくる。
王城の入口が開き、足を踏み入れると、圧倒的な威圧感が波になって押し寄せる。
こういう雰囲気は夜会とはまた違った意味で苦手だ。
「あ、ふたりとも早かったね」
声がした方を振り向くと、そこにはアインツ殿下の姿があった。
「殿下自らお出迎えしていただけて光栄ですわ」
ロングコートでなけなしのカーテシーをする。
「……………ところでベロニカ嬢」
「はい、何でしょうか?」
「そのコートの中って………」
ロングコートで隠しきれない脚の部分をチラッと見てアインツ殿下が“もしかして”といったように聞いてくる。
「………侍女の趣味です」
何やら察しがついたのだろう。
「……また?」
こんなような反応をしてくるアインツ殿下から視線を逸らす。
「今日は時間を理由に部屋を追い出されました」
「いや、なんで侍女に負けてるの」
「……………」
「黙秘か。もしかしてベロニカ嬢、押しに弱かったりする?」
それを探ってどうするのだ。
「聞かないでください」
もはや肯定したのと同義だが、実際に口にして認めるよりはまだマシだと思った。
「ハハッ、そんなに認めたくないんだ?」
「いいから早く今日の目的をこなしてください」
「この会話もその中に入らないのかな?」
「入れたら全力で殴らせていただきますけど?」
何故そんなにも私とこんなくだらない話をしたいのか分からない。
今日はドミニクと仲を深めるのが目的だろう?
「あー………じゃあちょっと遠慮しとく」
「それでお願いします」
私が微笑むと、アインツ殿下は苦笑した。
アインツ殿下に中庭へと案内された。
中庭には金で縁取られた白いシンプルな机とそれとセットらしき椅子が三脚、机上にはお菓子やらなんやらが乗っていた。
ドミニクはずっとびくびくしながら私の後ろに隠れて歩く。
「ドミ、そろそろ私の後ろから出てきなさい。殿下に失礼よ」
そう言うも、出てこない。
「いいよ、ベロニカ嬢。段々と慣れてくれればいい。俺がドミニク嬢のペースに合わせるよ」
「殿下に手間を掛けるわけにはいきません」
「ベロニカ嬢、ドミニク嬢に厳しくない?」
「当たり前です。社交界デビューしたということはドミも立派な淑女です」
「お姉様………私帰りたい」
「ドミ、私も帰りたいのはやまやまなのですが、お相手がアインツ殿下なのだからしょうがないでしょう?」
「帰りたいのはやまやまとかハッキリ言わないでくれる?」
さっきから殿下にもドミにも厳しい私を見て殿下ははぁ、と溜め息をついた。
ドミの肩がビクッ、と怯えたように飛び上がる。
「殿下、ドミを怯えさせないでください。仮にも社交界デビューしたばかりの16歳の少女なんですよ」
「分かったから怒らないで。………でも、16でデビューとはかなり珍しいね?」
「……まあ、はい。お父様が過保護過ぎるのです」
「ベロニカ嬢のお父様って言うと……シリア公爵か」
「そうですが」
「あの厳つい顔で親バカか………。ふっ、く、ハハッ」
「なに笑ってんですか」
「ちょっと想像しちゃった。そう言えば、昨日君の家に行った時に君が出てきたときの反応もそんな感じだった。『可愛い』『露出多い』『脚丸見え』『可愛い』『可愛すぎる』『似合う』。俺でもそう思ったくらいだから公爵には刺激が強すぎたかもね」
いや、それをにこやかに言われても……………。
というより『可愛い』って主旨の言葉が三回出てこなかった?
「あ、そうだ。ベロニカ嬢、ドミニク嬢に話があるんだけど一度席を外してもらえない?」
話が突然変わったことで一瞬反応が遅れた。
「え、はい。別にいいですけど。というより、この際ですから帰ってもいいですか?」
「俺はいいけど………」
私の問いにアインツ殿下はドミを見ながら苦笑した。
「お姉様、帰らないでください。一度席を外すだけならいいですが私を置いて帰らないでください」
その視線をたどると顔を真っ青にして首を小刻みに振っているドミの姿があった。
「確か今日は応接間が空いてるからそこで待ってて。話が終わったら呼びに行くから」
この状態のドミを置いて帰ることは流石にヤバイのでそうすることにした。
それがまさかあんなことになるなんて、
誰も考えなかったのだ―――
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