甘いどころか甘過ぎる

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甘いどころか甘過ぎる

「嫌なら、これ()けて。避けなかったら、受け入れたってことにするから」 後ろから器用に私の顔の向きを変えられて対面するかたちになる。 なにをするかと思えば、顔が寄ってくる。 まさか、キス――― でも、不思議と嫌じゃなくて、避けることはしなかった。 目を閉じると、柔らかいものが唇に触れる感覚。 「んっ………」 暫くしてからやっと殿下の唇が離れていき、目を開ける。 真っ先に見えたのは、驚いたように目を丸くする殿下の顔。 私が受け入れると思っていなかったらしい。 「ありがとう、ベロニカ」 柔らかく微笑んだ殿下に名前を呼ばれて驚く。 そんなことより、私が抜けてきてから30分が経とうとしている。 「………あの、殿下? そろそろ人が来るので離してもらえませんか?」 「“ヴァイス”、それか“ヴィー”。“殿下”って呼び方、堅苦しいからやだ」 「あの………?」 「あと、敬語使わなくていいから」 どうしよう、とても困った。 王族を呼び捨て&タメとかヤバいじゃないですか。 「呼んで。それじゃなきゃずっとこうだよ」 それも困る………。 「えっと、あの、呼ばなきゃ…………だめ?」 「可愛いけどだめ」 ちゃんと呼ばないと、どうやら本当にこのままらしい。 「………ヴィー、そろそろ離して?」 結局、私が折れて、愛称で呼ぶ。 すると――― 「あー、可愛い。好き」 そう言って直後(すぐ)、唇が振ってきた。 「んっ…………でん、かぁ、約束、違う………んっ」 「うるさい」 キスされながら文句を言うと、む、と不機嫌になった殿下。 すると、いきなり唇をペロッと舐められ、吃驚(びっくり)して口が緩む。 そこに容赦なくねじ込まれたのは殿下の舌。 「んっ、ぁ」 殿下の舌が私の舌を絡めとり、口の中で動く。 腰が抜けて殿下に身体を預ける。 数分後、やっと離れた唇。 かと思えば、殿下は顔を私の肩辺りに(うず)める。 かっちりと閉められた軍服のボタンを片手で器用に2,3個外すと、中のブラウスのボタンも同じように外す。 「っ、殿下、何して―――!」 「“殿下”じゃなくて“ヴィー”でしょ?」 首筋に、(うなじ)に、殿下の唇が触れる。 ぢゅ、と吸われる感覚。 かぷ、と甘く噛まれる感覚。 ちゅ、とキスされる感覚。 ぺろ、と舐められる感覚。 その全部が私を襲った。 「ヴィー、だめ!!」 正気に戻った私は殿下を突き飛ばす。 といっても、殿下は座ってるわけだから飛ぶわけがなくて、ただ私が下がっただけなのだけれど。 涙目になっているだろう私は、殿下の滅紫の瞳を見つめる。 ―――と、 「ベロニカ嬢、呼びにきた――よ………?」 最悪なタイミングでアインツ殿下が入ってきた。 私は咄嗟に振り向いて、駆け寄った。 乱れた服と涙目に気付いたアインツ殿下は、兄であるヴァイス殿下と私を見比べて、咄嗟に私を自分の方へと引き込んだ。 「兄上、ベロニカ嬢に何をしたんですか?」 真剣な表情で問いかけながらも私を気にするアインツ殿下。 そして、私の首筋を見て顔を険しくした。 「ベロニカ嬢、これ………」 「“これ”……………?」 「キスマーク、ついてる」 「きす、まーく?」 「………ベロニカ嬢疎い」 「それは、よくないこと?」 「よくないっていうか………。兄上にこの辺吸われましたか?」 そう言って、私の首筋に触れる手付きはとても優しい。 「うん、たぶん」 「なんか甘くない? まあいいや。その行為に、貴女は『良い』と言いましたか?」 「……………………いってない」 その瞬間、魔法が発動した。
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