兄弟喧嘩、痴話喧嘩?

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兄弟喧嘩、痴話喧嘩?

軍神(クリーガス)加護(ショッツ)・マルス≫ 「兄上、死ね」 アインツ殿下はどこからか太刀を出してきて、それをヴァイス殿下に叩き込む。 ここからヴァイス殿下のところまではかなり距離があるはずなのに何故か刃が届いている。 ≪軍神(クリーガス)憑依(ビジッツ)・インドラ≫ ヴァイス殿下も魔法を発動し、ギリギリのところ………ではなく、かなり余裕で受け止めた。 その手には小刀が握られている。 同じ“軍神”でも違うのは、血統魔法の種類が違うから。 まあ、この辺の説明は後でするにして、まずはこの二人の喧嘩を止めねばならない。 ≪平和神(フリーデンス)憑依(ビジッツ)・エイレネ≫ 『aufhören zu kämpfen(喧嘩はやめなさい)』 私がそう言うと、それぞれが持っていた太刀と小刀が消滅し、ふたりは膝から崩れ落ちる。 ヴァイス殿下は驚いたように目を丸くし、アインツ殿下は「ベロニカ嬢には敵わないや」と言って両手を軽くあげた。 「喧嘩はだめよ?」 ふたりをそれぞれ覗き込み、言い聞かせるようにそう言うと何故か顔を赤くする。 「あの………。お姉様、大丈夫ですか?」 突然割って入ってきたのはドミ。 「ドミ………! 大丈夫? 怪我してない?」 「私は大丈夫です。それよりも、お姉様は?」 「私も大丈夫。ヴァイス殿下もアインツ殿下も多分大丈夫よ」 「私はお姉様の情報しか求めてないわ」 「そう冷たいこと言わないの。アインツ様とドミにはとても助けられたよ。ヴァイス殿下はまだしも、アインツ様のことはちゃんと敬いなさい」 「アインツ様を敬うのは当たり前です。先程、少々助けていただいたので………。ところで、そちらの殿方はどなたですか?」 ……………ですよね、そうなりますよね。 「………『どなたですか?』じゃねぇよ。人に名前聞くときは自分から名乗るべきだろ」 私がここに来たときのヴァイス殿下に言いたい。 ナイフまで投げてくるとかドミより失礼極まりない。 「貴方に聞いていませんわ。アインツ様、もしくはお姉様に聞いているんですの」 うちの妹つよ。 「ドミニク嬢、あれは俺の兄のヴァイスだよ。腹違いでもなんでもない本当の兄だ。俺が今年17で、兄上が18かな」 アインツ殿下がにこやかに答えると、ドミはヴァイス殿下を見て一言。 「そうですか。でも、私あの方嫌いです。」 「はっ、それはそれは偶然だな。俺もお前が嫌いだ」 それに、ヴァイス殿下も便乗してる。 「そんなことはどうでもいいんだ。それより、ベロニカ嬢に手出してんじゃねーよ」 「あ? いーだろべつに。合法だ」 「許可を出していないということは非合法だと思うけど?」 今度は口喧嘩が始まった。 「うるさいです。兄弟ゲンカは他所(よそ)でしてください」 鬱陶しくなって私がそう言うとアインツ殿下は顔をしかめた。 「なんでベロニカ嬢はそんな落ち着いていられるんだ? さっきまでものすごく動揺してたよね」 「なんか兄弟ゲンカ見てたら全てがどうでも良くなりました」 「そのベロニカがいう“兄弟ゲンカ”の元凶はお前だろ」 「もとはといえば殿下が余計な手を出すからでしょ?」 「だから“殿下”はやめろって言ってんだろ」 「だからってなんで貴方のことを愛称呼びしなきゃいけないんですか。いやですよ」 「うわー。さっきはもっのすごーく可愛い声出してたのに」 「うるさい。最初のはまだしも、それ以外は訴訟ものよ!」 私とヴァイス殿下が口論を始めると、アインツ様がそれを遮るようにバンッと机を叩いた。 「痴話喧嘩しないでくれる? ドミニクが困ってる」 「アインツ様! 痴話喧嘩とか誤解を生むような言い方しないでください」 「あ? 痴話喧嘩ってことでいーだろべつに。どうせすぐに婚約するし」 「ヴァイス、貴方は黙ってて」 「お、呼び捨てした」 「うるさいです! お姉様をいじめないでください! お姉様をいじめる貴方は大嫌いです!」 ドミが目に涙をためて訴えかける。 うるうるとした瞳で見つめてくるのめっちゃ可愛い。 「取り敢えず殿下は黙っててください。話が進みません」 「やだって言ったら?」 「御逝去遊ばせ」 にこりと笑ってそう返すとアインツ様が青ざめた。 「物騒。ベロニカ嬢に言われると本気としか思えないから怖いんだよね」 「あら、ふざけたことしなければ良いだけですわ」 「本気でやるつもりなんだ」 「俺は黙らないからな。さっき俺のきゅうk―――「ヴィー、良い子だからベロニカのゆーこと聞ーて?」 このタイミングでさっきの求婚のことを知られたくなくて、ヴァイス殿下の頭をポンポンと撫でる。 「じゃあ黙ってるから俺の膝来て」 「それはちょっと………」 「じゃあやかましくする」 「それは私が許さないもんっ。お姉様に触らないで!」 「ドミニク、分かるけど言っちゃだめだよ。ほら、兄上って怖いから殺されちゃうぞ」 「おい、アインツ。貴様には兄に対する敬意というものがないのか」 「兄上じゃなきゃ敬意を持っていたかもしれませんね」 「そうですよ、アインツ様。ヴィーに敬意を払う必要性は皆無ですよ」 「ベロニカ嬢、ずいぶん兄上と親しげですね」 「こうでもしないと落ち着いてくれませんから」 私がはぁ、とため息を吐くとヴァイス殿下に服の裾をくいっと引っ張られた。 「ベロニカ膝」 「だから嫌だって」 「違う違う。ベロニカの膝を貸して。ここのソファの端の方に座って」 「………?」 何をされるのかは分からなかったけど、分からないからこそ、私は無警戒で近付こうとした。 「はい、ベロニカ嬢ストップ。悪い男に騙されるよ」 ―――が、アインツ様に引き留められた。 「悪い男、ですか?」 「そう。例えば兄上みたいな」 「おい」 「ヴィー、黙りなさい」 「ベロニカ嬢、今自分が何され掛けたか分かってます?」 そう聞かれたが、特に心当たりはない。 というより、 「まず、なにかされかけたんですか?」 「だめだ。この子終わってる………」 私の質問にアインツ様はため息を吐いた。 「これから悪い男対策をします。まず、ベロニカ嬢には、男がどれほど危険な生物か知ってもらいます」 そして、謎の講座が開いた。
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