ひゅうひゅうどろりの悪縁会

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 春とはいえ、まだ夜は冷える。薄っぺらいスーツでは夜風に対抗することはできない。ぴゅうと吹いた風が、肌の粟立ちを僕に残していった。  それにしても、妙に肌寒い夜だ。今夜は少し風が強いらしい。空を見上げると、主役を覆う邪魔な雲はかき消され、立派な月が浮かんでいる。ああ、そういえば今日は満月だったっけ。普段よりも色が少し濃いようだ。何だか不思議な気分にさせられる。  進むほどに喧騒は大きくなってくる。それにしても、随分と楽しそうな声だ。どんちゃん騒ぎという表現がしっくりくる。若者だろうと思っていたが、ちょっとしわがれた感じの声から察するに、騒いでいるのは年配の人たちだろうか。それか、飲み過ぎてすっかり酒焼けしてしまっているか。よくもまあ、こんな時間まで騒げるものだ。もしかしたら若者よりも活力に満ちているんじゃないだろうか。  と、そんなことを考えていた僕は、その喧騒の元が何なのかを知って呆然とする。  そこは桜なんて何もない、住宅街から外れた空き地だった。近々駐車場になるという旨の看板が近くに立っている。それだけならまあいい。春の夜は過ごしやすいから、騒ぐことができる人気のないところで、夜に宴会をする人もいるだろう。じゃあ何がおかしいのかというと、そこで騒いでいるやつらは角が生えていたり、毛むくじゃらだったり――そう、人間ではなかったのだ。 「嘘だろ……」  そんな感想が勝手に口から出る。  それは所謂、妖怪という存在だった。
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