ウソつき男の吐かせかた

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 だが、ここで奇跡が起こった。成瀬に相談後ほどなくして「求人を見たんですが……」と、村役場に連絡が入ったのである!  それを知った松岡は驚いた。そして、さっそく時間を作ると、成瀬同席のもと面接を行った。  年配の女性かと思いきや意外と若く『仕事ぶりに期待できる』と喜んだ松岡は、彼女が持ってきた履歴書に目を通した。年齢は45才。結婚まで他県で生活し、その後こちらへ移ってきたようだ。職歴は総合病院に就職したのを皮切りに、クリニックを数ヶ所。顔を上げた松岡は「色々経験を積んでらっしゃいますね」と、得意の【悩殺スマイル】で女性の心を掴もうとした。 ―――  絶対、逃してなるものか  松岡は自分に備わった魅力を十分認識していた。男女問わず いける彼は女性の気持ちを掴む表情やしぐさを心得ており、今の笑顔もよく使う手。何かを頼みたい時や迷惑をかけた際に有効で、いわゆる【特効薬】みたいなものだった。  しかし、ピリピリした空気を感じて隣りを見れば、成瀬が冷ややかな視線を送っているではないか。『これだから……』と、呆れた顔をする彼は何でもお見通し。自分が筋金入りの人たらしで、これを武器に世の中を渡り歩いてきたことを知っていた。彼もまた若かりし頃、この笑顔に騙されて復讐心を忘れて のめり込んた苦い経験があった為『ここにも犠牲者が……』と、憐れんでいるに違いない。  今は若干の嫉妬も加味されているだろうけどね…… と、心の中で憎まれ口を叩いた その時である。成瀬が「えっ!」と小さく声をあげ履歴書を引き寄せるとこう言った。 「最近まで〇〇医院に勤めていらしたんですか?」 「そうですけど…… それが何か?」と、急に取り澄ました女性に違和感を覚えた松岡は 奪われた履歴書を取り戻して見直した。が、成瀬が驚く理由が分からない。すると、スッと腕が伸びてきて住所と最終職歴を指さす。『ここを見ろ』ってことなのか と、目を凝らした松岡は固まった。彼女は隣村の住人で、勤め先が例の評判の悪い医院だったからである。  松岡と顔を見合わせた成瀬は、射貫くような視線を向けて質問した。 「なぜ、前に勤めていたところを辞めて、ここへ就職しようと思ったんです?」 「特に理由はありません」 「あなたの家から〇〇医院まで目と鼻の先じゃないですか。そんな通勤が便利なところを辞めて、何キロも離れた場所で働こうと思った訳を教えてくれませんか?」
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