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花見
桜が暖かな風に舞うようになった頃、公園は多くの花見客で賑わっていた。途切れることのない人の波にモモの心は不安でざわめいていた。
「ねぇ、おにいちゃん。モモからぜったい、はなれないでね。ね?いま、はなれたら、もうどこにいるか、わかんなくなっちゃうもん…」
声を震わせる妹にサクは優しく微笑んだ。
「大丈夫だよ。モモこそ離れないようにな。」
その時、強い風が吹き、モモの体が風にあおられた。
「ほら、言ったそばから危なっかしいなぁ。」
クスッと笑いながらもサクの声に不安の色が混じる。そんなサクとは対照的なバカ笑いが聞こえてきて、モモは顔をこわばらせた。すぐ側でひどく顔を赤らめたおじさん達が騒いでいたのだ。彼らは調子の外れた歌を歌いながら両手を振り回し踊り始めた。と、一人の振り上げた右手が頭上の桜の枝に当たった。
「ぁ」
モモはみるみるサクから遠ざかっていく。
「モモ!」
サクの叫びも虚しくモモの体は5枚の花びらとなり、桜の花の絨毯の一部となった。
その夜、まるでサクの心を表すかのように、雨が降った。サクは今にも枝から離れそうだ。
ポツン。ポツン。
サクの体を打つ。
ぽつん。
その一滴がサクを枝から突き落とした。
だから、桜は嫌いだ…もし、もしも、生まれ変わり、というのがあるのなら…1秒でいい。モモともう少し長くいられる生命にうまれたいー
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