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路地裏にて
繁華街の片隅にある小さな食堂、藍真粥店。
ジンの馴染みの食堂で、ジンに拾われて間もないユーシーが手伝いをしていた店だった。店主はシン婆と呼ばれる老女で、店のメインメニューには中華粥が並ぶ。ガイドブックにこそ載らないが、観光客や地元の人間で客足が絶えることはない。
食事時にもなると、席はほぼ埋まってしまう。夜も、この辺りの住人が入れ替わり立ち替わりやって来て、店は賑やかだった。
ユーシーは入り口寄りの隅の席で唐揚げを齧りながら、お気に入りのサングラスをずらして店内を眺めていた。
ルーズなシルエットのチャイナシャツに、ハーフパンツ、スニーカー、黒いキャップにサングラス。
今日のユーシーの仕事着だった。多少血がついてもいいように、仕事の時は暗い色の服が多い。夜の街で活動するにはその方が都合が良かった。
壁に掛かった年季の入った時計は十時を回ったところだった。
店内に、写真の男が姿を現した。
服装こそ違うが、顔は写真と同じだった。背を丸めて入ってきた男はカウンター席に案内され、脇目も振らずにカウンター席に着く。
ユーシーはまた一つ唐揚げを齧り、席に座った男の後ろ姿を視界の端で観察した。ひょろりとした痩せ型の体躯に黒髪、背丈はユーシーと同じくらいだろうか。
男の入店から三十分後、食事を終えた男が席を立つ素振りを見せたので会計をすませ、店を出る。
ユーシーは店の前からずれた場所で男が出てくるのを待った。
男はすぐに出てきた。ユーシーは静かに男の後を追う。気付かれないよう一定の距離を空けて、通りを歩く。やがて男は脇道に入っていった。
隠れ家か、宿だろうか。
ユーシーも男に続いて脇道に入る。
ネオンも街灯も少ない通りは人も少ない。街の喧騒は遠くなるばかりだ。
男はまた道を曲がる。通りは先ほどより狭くなった。
ユーシーは歩調を早めた。足音を殺して、男に近づく。
あと数歩の距離まで近づいたところで、声を掛けた。
「なあ、あんたがウー・シンファ?」
男が振り返る。
ユーシーの目を見た途端、男は短い悲鳴を上げた。琥珀色の双眸に、恐怖に引き攣った顔が映る。
男は後退り、走り出した。
ユーシーはその背中を追う。
逃げ出した、ということは当たりだろう。
通りを進むにつれ、青黒い夜の闇が深くなる。
ネオンの光の届かない裏路地に、男の荒い息が反響する。
人がやっと通れるくらいの狭い路地を、男は足をもつれさせながら走る。配管やらゴミやらが邪魔をして、全力疾走できる箇所は少ない。
それでも文字通り懸命に走る男は、いよいよ躓いてバランスを崩し、地面に転がる。
起きあがろうとついた手をスニーカーに踏みつけられ、男はうめきを漏らし、視線を持ち上げる。
色濃い闇に浮かぶ、琥珀色の目が見えた。その目には、なんの感情も見えない。
瞬間、顎に鈍い衝撃が走る。
蹴られたのだと認識すると同時に、脳が揺れ、男は再び崩れ落ちた。
裏路地に迷い込んだら最後、この街の裏路地を知り尽くしたユーシーから逃れられるものは少ない。
脱力した男の頭を抱え、力を込めると、鈍い音がした。
首を折られた男の体が地面に倒れ込む。その身体は再び動くことはなかった。
息が無いのを確認して、ユーシーは踵を返し、音もなく路地の奥の闇に姿を消した。
入り組んだ裏通りを抜けて、安宿の並ぶ路地に出る。
頭の中は冷静だというのに、心臓がうるさく鳴って、腹の底がじわりと熱を帯びる。
仕事の後はいつもこうだった。
ジンが言うには、命のやりとりをしたからだという。初めは人を殺して興奮する変態になってしまったのかと思ってジンに相談したこともあったが、命懸けの仕事の後は大体こうなる、そういうふうにできてるんだとジンは言った。
吐き出すまで落ち着かないこの熱をなんとかしたくて、気持ちばかり逸る。
深く呼吸をして、ポケットにしまっていたサングラスをかける。早く報告をしてジンにしてもらうか、自分でするかしなければ頭が変になりそうだった。
じわりじわりと、正気が蝕まれていく。熱を帯びた高揚感が、衝動めいたものが、腹の底から這い上がってくる。
メインストリートへ続く通りへの角を曲がったところで人にぶつかった。
ユーシーが反動で尻餅をつきそうになったのをしっかりと抱き止められた。
「あぁ、すまない。大丈夫かい?」
どこか辿々しい広東語が降ってきた。見上げると白人らしい、三十代くらいの男だった。灰色がかった暗い茶色の髪に整った顔立ちで、背はずいぶん高い。スーツを崩して着ているところを見るとオフのビジネスマンのようだった。
身なりは良いから、海外の大企業の会社員か、役員だろうか。
繁華街も近い。そちらの客が流れてきたのだろう。ここはジンのいる組織の縄張り。他の組織のものが大っぴらに入ってくるとは考えにくい。
「ケガはない?」
「あぁ、大丈夫。ありがとう」
見上げた視線の先、ぶつかった相手は、澄んだブルーの目を煌めかせていた。探し物でもり見つけたような、そんな顔だ。
綺麗な顔だった。彫りの深い顔立ちに通った鼻筋、はっきりとした二重の瞼にブルーアイを縁取る焦茶色のまつ毛。
甘い低音を紡ぐ唇は厚みがあって柔らかそうだった。
思わず見入ってしまう。
「アンバーみたい。綺麗な目だね」
ユーシーの琥珀色の目を覗き込んだ男の長い指が、ずれたサングラスを直した。
裏街では恐れる者の方が多いその目を、この男は綺麗だと言う。黒い琥珀の話を知らないのなら、この辺りのマフィアではなさそうだ。
「お詫びにいまから食事でもどうかな」
思わぬ誘いに、ユーシーは思わず笑った。
悪くない。端正な顔に、甘い低音。髭も綺麗に剃られているし、清潔感がある。
ジンには知らない奴にホイホイついていくなと言われているが、何度もハズレを引いてきた経験則から、こいつは当たりだとユーシーの本能が告げている。
「いいよ」
ユーシーよりも頭ひとつ分は背が高い。手首に見える腕時計は有名な高級ブランドの限定モデル。金も持っていそうだ。
「けど、俺、セックスの方がいいな」
ユーシーの頭は、どうやってホテルにしけこむかの算段を立てはじめていた。
気持ちいいなら、それに越したことはない。多少変な趣味のやつでも構わなかった。
「構わないよ」
願ったり叶ったりの返事に、ユーシーは思わず唇を舐めていた。
「あと、英語でいいよ。わかるし、喋れるから」
ユーシーが英語で言うと、男はキョトンとした後、嬉しそうに笑った。これもジンの厳しい指導のお陰だ。
「そっか。助かるよ」
「あんたのこと、なんて呼べばいい?」
「ルイって呼んで。君は?」
「シャオユー」
この名前を自ら名乗ることは滅多にない。時々ふざけてジンがこの名前で呼ぶ以外は、古い馴染みが使う、ユーシーの愛称だった。
「かわいい名前だね」
ルイはそう言って微笑んだ。
ルイはユーシーの手を引いて大通りに出るとタクシーを捕まえた。
先程からずっと手を握られている。
そんなことしなくても逃げないよと言ったが、ルイは手が繋ぎたいだけだと言う。
手っ取り早くセックスができればいいと思っていたユーシーだったが、温かい手のひらに、心臓がいつもより早く脈打って気恥ずかしかった。
なんとなくルイの顔が見られなくて、ユーシーはぼんやりと流れる景色を眺めた。
二人を乗せたタクシーはユーシーのいた九龍エリアを抜け、ヴィクトリア・ハーバーを越えて香港島へ向かっていた。
連れてこられたのは、ユーシーのいた区画からは海を挟んだ対岸、中環にある高級ホテルだった。
この辺りはユーシーに仕事を寄越すジンの組織とは別の組織の縄張りだ。しかし、ルイはおそらくカタギの人間。ユーシーも表面上は組織に所属していないということで通っているので、余程のことがない限り諍いにはならない筈だ。
ルイのエスコートでやってきたホテルのエントランスは、いかにも高級ホテルといった上品な煌びやかさだった。
ロビーを進み、エレベーターに乗り込む。
案内されたのはスイートルームだった。
「お先にどうぞ」
部屋に通されるなり、豪奢な調度品に圧倒される。内装を見ただけで、安い部屋ではないとわかった。
「すげー部屋……」
室内に見惚れていると、隣にいたルイがユーシーを抱き上げた。
「っ、なに?」
あまりに軽々と抱き上げられて驚いていると、すぐ目の前に端正な横顔があった。
「ルイ……?」
「先に、お風呂に行ってもいい? 流石に、外が暑くて」
ルイは苦笑いした。そのまま始めようとする奴も少なくない。ルイは紳士的で綺麗好きなのかもしれないとユーシーは思った。そういうところは好ましく思う。風呂に入らずにおっ始めようとする連中に比べたら天と地ほども隔たりがある。やはりこの男は当たりだ。
「ん、いいよ」
ユーシーが返事をすると、そのまま真っ直ぐにバスルームへと連れて行かれた。
部屋の中央にバスタブが鎮座し、その両側に洗面台、シャワールームとトイレがある。
磨き上げられた大理石の床が眩しくてユーシーが目を眇めると、ルイは灯りを落としてくれた。バスルームを包む白い光が優しい金色に変わる。
ユーシーは明るいのが苦手だった。
「ごめん、眩しかったね」
そっと床に下ろされる。
薄暗くなったバスルームで、ルイは屈んでユーシーの顔を覗き込んだ。
「ふふ、本当に綺麗だ」
ルイは余程気に入ったのか、うっとりと目を細めユーシーの頬を撫でた。ルイの手のひらは温かく、先程はブルーだと思っていた目は近くで見るとグレーがかっている。
「ルイの目も、綺麗だよ」
口から出たのは素直な感想だった。他人の目を、こんなに近くで見るのは初めてかもしれない。
「本当? 嬉しいな」
ルイは本当に嬉しそうに、柔らかく微笑んだ。涼しげなブルーが揺れて、ユーシーは思わず見惚れた。
「シャワーを浴びようか。一緒でいい?」
「いいよ。ここでしてもいいけど」
「ふふ、ここだと痛い思いをさせそうだから、ベッドまで我慢できる?」
子どもに言い聞かせるように穏やかな口調で、ルイは言う。
「うん」
ユーシーの返事に微笑むと、ルイはユーシーの被っていたキャップを取り、サングラスを外して髪を撫でた。
「綺麗な髪」
梳くように指を絡めて、黒いシルクのような手触りを楽しんでいるようだった。
「ピアスも」
ルイの指先が、くすぐるように耳の縁をなぞる。それだけで腰がぞくぞくと震えた。
早く触ってほしいのに、ルイは丁寧に、チャイナシャツのボタンを一つずつ外していく。
もどかしさが、じわじわと上がる熱を加速させる。
ルーズなシルエットのチャイナシャツを床に落とすと、ユーシーの上半身いっぱいに描かれた植物と幾何学模様で構成された図案が露になる。黒一色で描かれたそれは繊細で、黒いレースを身に纏ったようだった。
全身に描かれた刺青を見ても、ルイは躊躇うそぶりを見せなかった。それどころか、感嘆のため息を漏らした。
「綺麗だね。君は肌が白いから、黒がよく映える。ドレスみたいだ。痛くなかった?」
ルイは確かめるように、白い肌に刻まれた刺青を指先で撫でていく。指先から伝わる熱に、勝手に熱い吐息が漏れる。
「痛かったけど、もう忘れた」
ユーシーが肩をすくめて見せた。
「あれ、舌にも、ついてる?」
「うん」
ユーシーはべろりと舌を出して、ピアスを見せる。
「こういうのは嫌い?」
刺青も耳に無数についたピアスも、舌ピアスも、嫌がる手合いは少なくない。ここまで来てお預けを食らうのは何とか避けたいというのがユーシーの正直なところだった。見たところ育ちの良さそうなルイには、合わないかもしれない。
そんなユーシーの心配をよそに、ルイは首を横に振った。
「よく似合ってるよ」
ルイの指が薄い唇を優しく撫でた。
「ありがとう」
「ふふ、お臍にもついてるんだね」
ルイの指先が臍についた銀色のピアスを撫でた。
「刺青とよく合ってる」
ルイのアイスブルーの瞳が、愛おしげに細められる。冷たい色の瞳から感じるのは火傷しそうな熱量で、ユーシーは思わず唾液を飲み込んだ。
「下も脱がせるね」
ボトムも下着も脱がされ、頭をもたげたユーシーの性器が晒される。最後にバスタブに腰掛けて靴下とスニーカーを脱がされ、足に引っかかっていた下着も取り去られる。
ルイは何も身につけるものがなくなったユーシーの前に跪き、裸足の足の甲に恭しくキスをした。筋張った足の甲に、ルイの弾力のある唇が触れる。
唇の温かさに、柄にもなく心臓が高鳴る。
「シャオユー、綺麗だよ」
アイスブルーの瞳に、じりじりと胸を焼かれるような熱量を感じる。
「今夜は、僕にたくさん愛させて」
「うん」
ルイは手早くシャツを脱ぎ、靴を脱ぎ、スラックスと下着、靴下を脱いで床に落とす。均整のとれた身体が露になる。無駄な肉のない、それでいて決して細くはない逞しい身体。
どくどくと心臓が脈打つ。
これから、この身体に抱かれるのだ。
あとは身体の相性が良ければ、文句なしだ。
ガラス張りのシャワールームで一緒にシャワーを浴びて、ルイは丁寧にユーシーの身体を洗い上げていく。
後孔の洗浄を済ませると、ルイはユーシーを抱き上げてベッドに運んだ。
照明の落されたベッドルームは間接照明の柔らかな光に照らされ、金色の優しい光が心地好い。
下ろされたキングサイズのベッドはバカみたいに広い。こんな広いベッドで寝たことはなかった。
張りのある真っ白なシーツが照明に照らされて淡い金色に煌めいている。
ユーシーが寝そべるとシーツが緩く波打つ。ルイはユーシーの隣に寄り添い、その大きな手で頭を撫でた。
「シャオユー、準備をしようか」
「うん」
ユーシーが頷くと、ルイの温かな腕に抱き寄せられた。
「先にローション入れるね」
「っ、あ」
後孔にボトルが宛てがわれる。入ってくるローションの熱さに、思わず声が漏れた。
温感ローションだろうか。中がじんわりと温かくなる。こんなものを持っているなら、きっとこういうことにも慣れているんだろうと思う。
たっぷりと注がれ、ローションでぬるつく窄まりをルイの指先がくるりと撫でる。ルイの指先に皺を確かめるように撫でられると、ユーシーの蕾は物欲しげにひくついた。
そのまま、ルイの節くれだった指がゆっくりと押し込まれ、蕾はさしたる抵抗もなく飲み込んでいく。
「痛くない?」
「ん」
こくりと首を縦に振ると、指が二本に増やされた。
「少し解すよ」
ルイの指が、優しく中を押し拡げる。
ユーシーはルイにしがみついて緩い快感に耐えた。
「ふふ、柔らかいね。これならすぐに入りそうだ」
ゆったりと出し入れして期待に震える蕾を押し拡げると、ルイの指はするりと抜けていった。
「おまたせ、始めようか」
耳元に吹き込まれた甘やかな声に、ユーシーは思わず喉を鳴らした。
「脚を広げて。そう。上手だね」
ルイに太腿を撫でられ、言われるままに脚をM字になるように開く。すっかり勃ち上がった肉茎と、その下でひくつく蕾がルイの目に晒される。
心臓の高鳴りが期待によるものなのか、羞恥によるものなのか、最早ユーシーにはわからなかった。
目の前にいるルイの逞しい裸体から目が離せない。
ルイは自らの昂りに手早くコンドームをつけると、ユーシーの膝の裏に手を入れ、細い身体を折り曲げた。
「苦しくない?」
「ん、へーき」
綻び、てらてらといやらしく光る蕾にルイが猛りを押し当てる。膜越しにも感じる熱さに、ユーシーは息を呑んだ。
「シャオユー、ゆっくり、息をしてね」
ユーシーが頷くと、先端がゆっくりと沈み込んでいく。
「っあ、う……、はいっ、て」
ゆっくりと時間をかけて、ルイの怒張が柔らかな蕾をこじ開ける。張り出した部分が収まると、短いストロークで出し入れしながら、徐々に奥へと進んでいく。
ユーシーの肉洞は歓喜に震え、きゅうきゅうとルイを締め上げた。
「シャオユーの中、喜んでるみたい」
アイスブルーの双眸をぎらつかせ、ルイが熱い吐息を零す。
張りのある先端で前立腺を抉るように押されると、ユーシーの身体が跳ねた。
「シャオユー、ここは好き?」
ルイは先端でユーシーのしこりをじっくりと捏ねる。押し込まれる度、ユーシーは喉を引き攣らせた。
「っひ、ン、すき、だけど、う、奥にほしい」
「ふふ、シャオユーは奥が好きなんだね」
くすぐったいような甘い声で囁かれるのは癖になりそうだった。
ルイがゆっくりと奥へ、腰を進める。
ルイの性器は太さも長さもあった。前立腺を押し潰し、襞を蹂躙して、ルイの丸く張った先端が、奥の窄まった襞に当たる。
「シャオユー、ここ、開けてくれる?」
ルイが甘えるように窄まりを捏ね回す。
「ン、ふぅ」
ねだるような動きに誘われ、襞が甘えるように吸い付く。
かと思えば、抜けるギリギリまで引かれ、一気に窄まりを叩かれた。
「っあ!」
ユーシーが喉を晒す。
ルイは何度も、強弱をつけて窄まりをノックする。
張り詰めた肉茎を出し入れされると中全体が刺激されて、ユーシーは嵐のような快感に押し流された。
中は不規則に収縮してルイの肉茎を締め上げる。
逃げようのない体勢で中を掻き回され、上擦った喘ぎが止まらない。
ユーシーが言葉にならない声を上げる度、ルイは嬉しそうに笑った。
「るい、っあ、なか、きもちい」
「よかった。もっと気持ちよくしてあげる」
腹の中に埋まったルイの凶器のような怒張は、浅瀬から最奥まで、容赦無く蹂躙していく。
何度も前立腺を弾かれ、勃ち上がり震えるユーシーの陰茎はルイの動きに合わせて揺れて、とろとろと白濁を吐き出していた。
散った白濁が、肌に描かれた繊細な模様を汚していく。
ルイの逞しい昂りに奥を何度も突かれ、襞を捲ってユーシーの最奥にルイの先端が潜り込んだ。
「っひ、あ……」
こじ開けられ、最奥を小突かれて、ユーシーの視界に星が散った。
見開かれた蜂蜜色の双眸は涙で濡れ、薄い唇は力なく開いて空気を求めた。
絶頂へ押し上げられ、意識が半分飛んだ。
勃ち上がり震えるユーシーの性器は白濁をパタパタと散らした。
「ふふ、わかる? シャオユーの奥、入ったよ」
声を出す余裕もなかった。
頭の芯まで痺れるような多幸感に、他の感覚が薄れる。そのまま気を失いそうなところに、ルイがゆっくりと腰を引いた。
「あ、ぅ」
引き止めるようにしゃぶりつく最奥を張り切って、段差が襞を捲って奥から出ていく。
ユーシーは腹の奥から湧いてくる快感に飛びかけた意識を引き戻された。
「シャオユー、気持ちいい?」
ルイが動くと、ユーシーの中は勝手にひくついてルイを悦ばせた。浅瀬で前立腺を押し込まれ、最奥を突かれる度に、ユーシーは絶頂を迎えた。
「ん、っあ、きもちい! るい、だして、なか、ぁ」
ユーシーは譫言のように甘えた声を上げる。
「中で出されるの、好きなの?」
「ん、すき」
「ふふ、じゃあ、たくさん出してあげるね」
ルイが強く腰を打ち付ける。
最奥まで穿たれ、しゃぶりつく最奥に熱い迸りが何度となく打ち付けられる。
薄い膜があることも忘れて、ユーシーは、中に放たれた熱を堪能する。
「っく、あっ、ひ、なか、いって」
足ががくがくと震えた。身体を捩って、浮いた脚をピンと伸ばす。そうしないとおかしくなりそうなくらい、気持ちがいい。
「いい子。中でいけるんだね」
ルイが優しく頭を撫でてくれる。
何度目かの絶頂はユーシーの意志に関係なく訪れ、中はルイをきつく食い締める。
腹の中が切なく疼いて、頭が多幸感に埋め尽くされる。ジンとしている時だって、こんなふうになったことはなかった。
「あう、るい……」
まだ色濃く残る余韻を味わいながら、ユーシーは漣のような快感に揺られる。
「たくさんいけたね」
ルイが慈しむように肌を優しく撫でていく。頬を、胸を、腹を撫で、腰を伝い、太腿へ。
ルイの優しい手のひらに触れられると、胸の辺りが温かくなる。
多幸感と倦怠感でぼんやりしているユーシーの中から、ルイは自身をゆっくりと引き抜く。
それにまたユーシーの身体は快感を拾い、身体を震わせた。
引き抜かれたルイの性器はまだ質量があり、膜の先端には白濁がたっぷりと溜まって垂れ下がっていた。
ユーシーは半分閉じた瞼でルイを見上げる。目が合うと、ルイは穏やかに微笑んだ。
「クスリなしでこんな気持ちいいの、初めてかも」
ユーシーはぽつりと呟いた。ユーシーには最大の賛辞のつもりだった。
ゴムの片付けをしたルイは、ユーシーに寄り添う。
「クスリ?」
ユーシーの額に張り付いた髪を払い、ルイがキスをひとつ落とす。
「あぁ、ドラッグだよ。ルイはやらない人?」
「うん」
「そっか」
そりゃそうだと思う。ユーシーも好き好んで使おうとは思わない。
あまり食いつかないところをみると、割と真面目なタイプなのかも知れないとぼんやりと考える。
裏通りで声を掛けてくる奴は結構な確率で薬を使いたがる。どうしてもという奴はジンに貰った素性の知れたドラッグを使う。
まともなセックスより気持ちいい反面、後でやってくる反動を考えると、そうそう使おうとは思わないが。
ドラッグに手を出していないところを見ると、ルイはまともな人間なのだろう。どのみち、自分とは住む世界が違うというのを思い知らされて少し悲しくなる。
ルイはユーシーの隣に寝そべって、その大きな手で髪を撫でる。髪も、頬も、愛おしそうに、そっと撫でていく。
くすぐったいが、胸の辺りが暖かくなって、ずっと触れていてほしいとさえ思った。
「シャオユー、僕のところにおいで」
先ほどよりも眠たそうなブルーアイが、うっとりとユーシーを見つめている。
甘えるような声で囁かれたら、断れる奴なんていないだろうと思う。
「口説いてんの? 俺、高いよ?」
ユーシーはいつもの決まり文句を口にした。
ピロートークがあるのは稀だが、口説かれたことは一度や二度ではない。
その度に、ユーシーは無茶な額を提示しては相手の反応を見て楽しんでいた。
「いいよ、いくらだい?」
「一千万」
香港ドルを米ドルに換算すると百万ドルを超える金額になる。
ルイが冗談だろうと笑うのか、無理だと突っぱねるのか、どちらでもよかった。
そうやって相手を揶揄って遊ぶのが好きだった。
そんな法外な金額を、おいそれと出せるわけがないとたかを括っているユーシーは、静かにルイの反応を待つ。
「わかった」
想像していなかった返事に、慌てたのはユーシーの方だった。
「っえ、ちょっと、本気?」
「うん、明日の朝イチで用意するよ」
「……あんた、何者?」
「ただの、物好きなおっさんだよ」
ユーシーは声を上げて笑った。
変な奴だと思った。
「あんた、面白いね」
明日の朝、金が用意されるかどうかなんてどうでもよくなっていた。
「じゃあ、用意できるまで楽しませてよ」
ユーシーが誘うようにルイの頬を撫でた。ルイは笑ってその手を取ると手の甲にそっとキスを落とした。
「仰せのままに」
蓋を開けてみれば、ルイはサービス精神旺盛で紳士的、気性も穏やかで行為の相手にするには最高の相手だった。一晩だけの相手にするには惜しいとさえ思うくらいに、ルイとのセックスは理想的なものだった。
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