眩い朝に

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眩い朝に

 ユーシーは温かな布団の中で目を覚ました。  暖かくていい匂いのする羽毛布団と、自分をしっかりと腕の中に閉じ込めたまま寝息をたてているルイの体温が心地良くて、ユーシーは頬を緩めた。  自分を包み込む温かさが、自分以外の誰かのものだということに甘い充足感を感じる。  結局昨夜はユーシーが気絶するまでした。三回目までは記憶があるが、その後のことは覚えていない。  ルイに奥まで犯されるのは気持ちよかった。何より、ルイは焦らすことはせず、ユーシーが欲しがるままに快感を与えてくれた。惜しみなく与えられるその快感は鮮烈で、ユーシーの深くまで染み渡るようだった。  甘やかされ、甘い言葉に溶かされる快感は、ユーシーを虜にするには充分だった。  一夜限りの男に、こんなに夢中になったのは初めてだった。  ゴムも付けずにがっついてしまったのを思い出す。散々ねだって腹の奥に熱い白濁を注がれた。  一夜限りかもしれないルイのはどうしても一度生で味わってみたかった。  勿論、後始末をしなければ痛い目を見るのはユーシーだ。何度も体験して流石に学習した。  昨夜ももちろん何の片付けもしていない。腹の中には、ルイの精液が残っている。  もう少し微睡の中にいたかったが、背に腹はかえられない。 「やるか……」  ユーシーは怠い体に鞭打ってルイの腕の中から抜け出した。  部屋はまだ薄暗い。時計の示す時刻は夜明けの時間だった。  ふらつきながらベッドを降り、ぴったりと閉じたカーテンを少しだけ開ける。覗いた窓からは、白みはじめた空とヴィクトリア・ハーバーが見えた。  青白い明るさに目を眇め、ユーシーはカーテンを閉じた。  照明の落されたベッドルームを出てバスルームに向かう。ベッドルームとバスルームはワードローブで繋がっていた。大した距離ではなかったが、腰砕けになっていたらこうはいかなかっただろう。  今まで、調子に乗って抱き潰されたことも何度もあった。それを考えると、ルイは手加減してくれたのかもしれない。  薄暗いままのバスルームの床は心地良い冷たさで寝起きのユーシーを迎え入れた。  静かな空間を独り占めするのは気分が良かった。  ガラスの壁に区切られたシャワールームで温いシャワーを浴びる。昨夜の残滓を掻き出そうと柔らかく解れた後孔に指をねじ込んで拡げるが、何も出てこない。中を掻き回しても、ありそうな気配はない。  ルイが掻き出してくれたのだろうか。  そういえば、腹に散々吐き出したはずの精液の跡もない。何度出したかは覚えていないが、腹に白濁が散った記憶はあった。  中を探るうち、指先が前立腺を掠めると背筋を快感が駆け上がった。 「っあぁ!」  思わず上擦った声が上がる。静かなバスルームに響いて、気恥ずかしい。 「かわいい声だね」 「っえ、あ、ルイ?」  弾かれたように顔を上げると、バスルームの入り口に裸のルイの姿があった。 「いいよ、続けて。それとも手伝おうか?」  ルイが近づいてくる。まさか起きてくるとは思っていなかったユーシーは困惑した。  頰が熱い。  事後処理を見られるのには慣れていなかった。 「ルイ、なか、ルイのザーメンは」  軽くパニックになっているユーシーを、ルイは正面からそっと腕の中に閉じ込めた。 「お腹痛くなるといけないから、昨日掻き出しておいたんだ」  ルイがシャワーを止めた。  反響する水音が止んで、静寂が訪れる。心臓の音が聞こえてしまいそうだった。時折シャワーヘッドから垂れた雫が弾ける音がする。 「っ、うそ」  そんなこと、一晩だけの相手にはされたことはなかった。ジンは文句を言いながらもしてくれるが、大抵自分でしていた。 「本当だよ。大丈夫かい? お腹痛い?」  ルイの手が、ひくつく下腹を撫でる。  わかってやっているならタチが悪いとユーシーは思う。腹の中は既に昨夜の情事を思い出して熱を持って疼いているのに。  そんなことはお構いなしに、ルイの温かな手は優しくユーシーの腹を撫でる。腹の中がきゅんきゅんと切なく疼くのがバレてしまいそうで、ユーシーはルイの手を剥がそうと手を重ねた。 「ちが、ルイ、腹ん中、熱い……」  すっかり引いた筈の昨夜の熱は、簡単に戻ってきた。頭を擡げた陰茎は震え、透明な蜜を先端に滲ませていた。 「じゃあ、昨日の続きをしようか」  ルイは咎めるでもなく、ユーシーの耳元に甘い誘いを吹き込む。昨日の続きと言われて、ユーシーの身体は期待に甘く震えた。 「ん」  頷くと、ルイの体温が頬に触れ、濡れた音を立てた。 「いい子だね」  その大きな手が、腹の中を弄るユーシーの手に重なる。  中に埋まったユーシーの指をゆっくりと引き出し、代わりにルイの指が二本埋められる。ユーシーよりも太い指を、昨夜の行為ですっかり柔らかくなった蕾は簡単に飲み込んだ。 「ふふ、昨日のこと、覚えてるみたいだね」  感触を楽しむように、ルイが戦慄く蕾を押し拡げる。 「っ、拡げん、な」  ユーシーの悪態など、中を探られればただの照れ隠しだとわかってしまう。  ルイは上機嫌でひくつく中を掻き回し、肉壁の中のしこりを撫でる。 「あう」 「気持ちいいね、シャオユー。ここもこんなに濡れてる」  ルイの視線の先には、腹につきそうなほど反り返り、震えるユーシーの肉茎。 「っ、だって、きもちい、から」 「自分で触れる?」  ルイの声に促され、ユーシーは恐る恐る先走りで濡れそぼった自らの昂りに触れた。  血を集めて硬くなったそれに触れてしまえば、もう歯止めは効かなかった。 「あ、ルイ、ルイ」  ユーシーはただ快感を追って濡れた肉茎を擦る。溢れ続ける透明な蜜は潤滑剤代わりになって、擦れば容易く快感を生んだ。 「嬉しいな、もっと呼んで」  ルイの唇が耳元でささやく。合間の呼吸まで聞こえて、ユーシーを否応無しに昂らせていく。 「んく、あ、ルイ、気持ちい」 「うん、シャオユーの中も、きゅうきゅうしてる」  ルイが中の様子を教えるように、ゆっくりと出し入れする。食い締める媚肉を揶揄うような動きに、余計に中の指を意識してしまう。 「るい、いく、から、ぁ」  張り詰めた自身を擦り、限界の近いユーシーはルイを見上げる。情欲に濁った琥珀色を、アイスブルーの瞳が覗き込む。 「うん、見てるよ。いってみせて」 「あ、う」  背中をしならせ、腰を突き出し、ユーシーの全身がびくびくと跳ねる。  散った白濁が、ユーシーの手を汚す。  昨夜散々吐き出したせいで、出たのは少しだった。 「上手にできたね」  ルイはその手を取ると、ユーシーの手についた白濁を舐め取った。 「っうそ、汚いって」 「汚くなんてないよ。おいしい」 「変態……」 「ふふ、そうだよ。知らなかった?」 「……知ってたかも」  どちらからとなく笑い合う。  楽しかった。こんな風に軽口を叩けるとは思っていなかった。  一晩だけの相手なのに、また会いたいと思ってしまう。そんなこと叶うわけがないとわかっている。だから、せめて時間の許す限り、この甘い時間を堪能したかった。 「なあ、ルイ」  腹に当たるルイのすっかり硬くなった性器を、ユーシーは指先でなぞる。うねる血管が纏わり付いた幹に、エラの張った雁首。丸く張りのある先端の、小さな裂け目からはとろりと透明な雫が垂れ落ちていた。  透明な蜜を指で掬い、先端にくるくると塗り広げる。 「これ、入れてよ」  昨夜で満足したと思っていたが、いざ目の前にしてみるとそんなものは気のせいだったと思い知らされる。  上目遣いでルイを見上げると、ルイはアイスブルーの瞳を蕩けさせた。 「シャオユーはおねだりが上手だね。いいよ、おいで」  柔らかなバスタオルを被せられ、抱え上げられて、またベッドに連れて行かれた。  ルイはユーシーを抱えたままベッドのヘッドボードを背に座った。  ルイは手早くゴムをつけ、ユーシーを膝立ちで向き合うように跨らせた。  ルイが自らの猛りにローションを垂らし、ユーシーの後孔にもたっぷりと注ぎ入れる。 「シャオユー」  ルイがユーシーを見上げる。  ずっと見上げるばかりだったルイの目が、今は自分を見上げている。自分だけを映すアイスブルーの瞳に、ユーシー胸が締め付けられる。  冷たい色なのに、優しさと激情を孕んだ強さを感じる。美しい瞳だと思った。  鼓動が血とともに熱を全身に運んで、甘く蕩けるような幸福感を生む。 「ね、自分で動ける?」 「ん」  華奢なユーシーに騎乗位をさせる奴は少なくない。ジンは疲れてるからやりたいならお前が動けと言うが、他の人間はそのしなやかな身体が自らの上で跳ね、快感に身を捩るのを見たがった。  ユーシー自身も嫌いではなかった。自分のペースで動けるのも、強引に下から突き上げられるのも好きだった。  腰を落として天を仰いだルイの先端を後孔にあてがうと、戦慄く蕾がしゃぶりつく。急かすようにルイ先端を食み、膜越しにもルイの熱が伝わって来てその熱さに眩暈がした。  ユーシーはそのまま腰を下ろしていく。  解けた蕾を押し広げながらルイの先端が潜り込み、窄まりを限界まで拡げて張り出した部分が収まる。それだけでユーシーは熱い吐息を零した。  昨夜受け入れたとはいえ、太さのある先端を飲み込むのは一仕事だった。 「あ、ふ」 「シャオユー、上手に飲み込めたね」  ルイはしなやかな筋肉のついたユーシーの腰を撫でる。 「ん、まだ頭だけだろ」  まだ収まりきらない血管のうねる逞しい幹に指を這わせ、深く息を吐く。奥で出してもらうには、まだここも収めなければいけない。その先の快感を知るユーシーの身体は期待に震えた。 「残りも頑張れる?」 「ん」  そのままゆっくり腰を落とし、奥の窄まりに当たるまでゆっくりと飲み込んでいく。  張り出した部分が前立腺を押し込み、ユーシーは腰を震わせた 「っあ!」 「上手。もう少しだよ」  宥めるようにルイにあちこちを撫でられる。震える太腿を、筋肉の浮いた腰を、ひくひくと震える腹を、優しく這うルイの手。触れられたところの体温が混ざり合い、くすぐったいような快感を生む。  ユーシーの肉洞は弛んだり強張ったりしながらルイを飲み込んでいく。 「っあ、ルイ」  ひくつく中をずるずると進んで、窄まった奥に先端が当たる 「はぁ、入っ、た」  ユーシーは跨ったまま、ルイの肩に両手を置いて腰を振る。 「シャオユー、中、気持ちいいよ」 「ン、おれ、も」  奥の窄まりを、丸く張ったルイの先端がこつこつとノックする。その度に甘い痺れが全身を駆け、ユーシーは背をしならせる。 「奥、入っていい?」 「ん、い、よ」  ユーシーの上下の動きに、襞を捏ねるルイの動きが増える。 「っふ、あ」  溢れる快感に飲まれ、ユーシーの動きが疎かになる。動こうにも、快感に染められた身体は言うことを聞かない。 「シャオユー、疲れちゃった?」 「ン、ちが……」  ルイが腰に手を置き、下から強く突き上げた。 「あ! ッう!」  視界が白飛びする。  ユーシーの勃ち上がった肉茎から透明な液体が散った。ユーシーは背をしならせ、震えるしかできなかった。 「シャオユー、わかる?」  言われなくても、ルイの先端が奥に潜り込んだのはわかった。ルイの手が臍の辺りを撫で摩り、そこまでルイが入っているのだと教えられている。  見開かれた琥珀色の双眸は生理的な涙で濡れ、薄い唇を力なく開けて酸素を求める。 「あ、は」 「シャオユーの奥も、甘えるのが上手だね。すごく気持ちいい」  最奥が、打ち込まれた楔にしゃぶりついているのがわかる。甘い声で嬉しそうに言われると余計に気恥ずかしい。  ルイが腰を掴んで、ユーシーの身体を上下に揺する。 「っあ、ルイ」  腰に置いたルイの手に、ユーシーが手を重ねる。  下から突き上げられ、その逞しい身体に、腕に、されるがままに揺さぶられる。  張り出した部分の段差が奥の肉襞を引っ掛ける度に、視界に真っ白い星が瞬いて、腹の辺りに熱い飛沫が散る。 「ね、ここまで入ってる」  コツコツと奥を優しく突かれ、臍のあたりを撫でられると、認識してしまう。ルイの逞しい肉茎が、腹の中に深々と突き立てられ、臍の下を押し上げている。  柔らかな腑を掻き回されるような感覚に、腹の底から快感が湧き上がる。  限界量の快感を与えられているユーシーは気を失いそうだった。  開いたままの口からは唾液が溢れ。顎を伝い落ちる。  もっと味わっていたくてなんとか意識を保っているが、身体の方はそろそろ限界だと言っている。何度も視界が白飛びして、気を抜いたらあっという間に意識を飛ばしそうだった。 「ふふ、よく頑張ったね、シャオユー」  突き上げを止めたルイがユーシーの手を取り、首の辺りに導く。 「そろそろ、僕もいかせて?」  意図を察して、ユーシーはルイの首に腕を回してしがみつく。身体同士が密着する。  ルイの身体の温もりが、ダイレクトに伝わってくる。 「いい子だね」  ユーシーを抱え直したルイは頬にキスすると、大きなストロークで突き上げた。  ルイの動きが、ユーシーに快感を与えるものから自ら快感を貪るものへと変わった。  容赦なく襞を蹂躙して最奥を突き上げる。その動きにすら、ユーシーの身体は快感を見出す。  ユーシーは揺すられるまま、嵐のような快感に飲まれた。  かと思えば小刻みに揺すられ、繋がっているところからは、粘ついた水音がする。 「っ、いくよ、シャオユー」  ルイが一際強く腰を打ち付ける。最奥に打ち込まれた楔が脈打ち、熱いものが奥に溢れたのが薄い膜越しにもわかった。  待ち望んだ感覚に身体中が歓喜して、ユーシーはとうとう意識を飛ばした。  意識が戻ったユーシーは、ベッドの上だった。  既に日は高くまで昇って、部屋はすっかり明るくなり、日が差している訳でもないのに眩しいほどだった。  小さく呻いて布団に潜り込むと、ルイの声がした。 「シャオユー、起きた?」  カーテンを引く音がして、布団の中が少し暗くなる。恐る恐る布団から顔を出すと、カーテンは閉められ、部屋は薄暗くなっていた。 「おはよう、シャオユー」  ルイに覗き込まれた。 「おはよう」 「明るいのは苦手?」 「うん」 「ごめんね、いつもの癖で」  ルイは宥めるように布団の上からユーシーを撫でた。  昼の世界の人間なんだろうとぼんやりと思う。夜の裏街で生きるユーシーとは、正反対の存在だ。  そう思うと、胸が少し痛んだ。 「お腹減ってない? 朝ご飯、用意したんだけど」  言われて、腹の虫が騒ぎ出す。言われてみればいい匂いがする。 「あ……、食べる」 「さぁ、どうぞ。一緒に食べよう」  ルイがユーシーの肩にバスローブを掛け、ダイニングへエスコートした。  ルームサービスなのか、ダイニングテーブルには既に料理が並んでいた。 「もう帰っちゃうの?」  時計は昼の十二時を過ぎたところだった。  部屋の入り口、ドアの前で帰り支度を整えたユーシーをルイは名残惜しげに抱き締めた。 「うん。今夜、約束があるんだ」  もう少しここにいたい気持ちもあったが、ジンとの約束には遅れられない。 「そっか、残念。あ、ちょっとだけ待って」  ベッドルームに入っていったルイはボストンバッグを持って戻ってきた。 「シャオユー、忘れ物だよ」  いつの間に用意したのだろうか。  ずしりと重みのあるそれを開けてみると、札束が入っていた。 「マジかよ」  思わず独り言が漏れた。まさか、本当に用意してくるとは思わなかった。しかも、現金で。  どうかしている。 「受け取れないって、こんな大金」 「小切手よりこっちの方が実感あるかと思って」 「そういう問題じゃねーよ……」  信じられないものを見るような目でユーシーがルイを見る。香港中の現金を掻き集めたんじゃないかと思うくらいに札束が詰まっていた。 「僕は本気だから、考えておいて」  そんな視線をものとのせず、ルイは笑ってユーシーの頬にキスをした。  手を握られ渡されたメモには、ルイの名前と電話番号が載っていた。 「会いたくなったら、連絡して」 「……わかった」 「じゃあ、またね」  当然のようにまたねと言われ、頬に柔らかな唇が触れた。  擽ったくて、ユーシーは笑う。  連絡先を貰ったということは、また会えるのだろうか。  手を振って部屋を出る。ドアが閉まって姿が見えなくなるまで、ルイは手を振っていた。  ホテルを出て、タクシーに乗っても、まだどこか夢のような気がした。  昼の眩い日差しの下、タクシーの車窓に流れる昼の街を、ユーシーはぼんやりと眺めた。
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