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プロローグ
高校生の時、ずっと好きな人がいた。クラスのムードメーカーで、誰にでも優しい。だから自分に向けられた優しさだって、彼にとっては自然なことであって、なんの意味もなかったのかもしれない。だけど私にとっては、彼に恋心を抱くには十分すぎる出来事だった。
ただそんな人だから、同じように感じる女子もたくさんいた。だから彼の周りには男女問わずたくさんの友人が集まっていく。
その中でもひときわ輝いていたのが、クラスで一番男子からの支持を得ていた佐倉さん。小柄でお人形のような彼女は、いつもピンク色のものを身につけていたからか、可愛らしい雰囲気に包まれていた。
それに比べて私は黒髪、眼鏡、制服はそのまま着るのが当たり前。目立つのは嫌だけど、つい人の嫌がることをやってしまう都合の良い人の私は、必ずクラス委員を任される。
そして必ず彼の隣には佐倉さんがいる。羨ましいと思いつつ、人見知りな私にはそこに入って行く勇気はなくて、遠くから眺めているしか出来なかった。
卒業式の日に、校舎裏で彼と佐倉さんが二人きりで話しているのを見た時に、それが告白現場であることはすぐにわかった。そして佐倉さんが泣いているのに笑顔で話していたのを見て、その告白がうまくいったのだと察知する。
私は告白をする勇気なんて出なかった。でも二人を目撃した時、すごく後悔をした。フラれたっていいから、告白すれば良かったって。
悔しかった。何より自分勝手に彼女に嫉妬している自分が情けなかった。
だから私は春が嫌い。ピンク色が可愛い"さくら"はもっと嫌い。
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