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「わたくし、一体どうすればよろしいのでしょう」
うなだれるわたくしに、トラ子さんは生き別れた姉さまと同じくらい、情けに満ちた微笑みを見せます。
「一度、家に戻ってみたらどう。万が一、旦那さまが帰ってきたあんたを追い返す様な人でなしだったら、今度こそおん出てやればいいのよ。その代わり、アタシが大事な妹分としてあんたを可愛がってあげるから」
トラ子さんの言葉で、わたくしは旦那さまのいらっしゃるお屋敷に戻る決心をいたしました。
わたくしがそれまでいた所は、元々暮らしていたお屋敷からそう離れてはいなかったのです。
やはり心のどこかで、旦那さまを忘れられずにいたのです。
「この辺りも、最近は野良犬がうろついて物騒だしねえ。家に帰るなら、明るいうちが良いわよ」
トラ子さんに見送られてお屋敷に戻ったわたくしですが、見覚えのある門を前にして、足が止まってしまいました。
もし、旦那さまがわたくしの事なぞお忘れになってしまわれていたら。
わたくしを覚えていてくださったとしても、にべもなく追い返されてしまったら。
そんな不安が、次から次へと浮かんできます。
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