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家路
以前そうしていた様に、何食わぬ顔で勝手口から入る勇気も出ず、わたくしはぐるりと庭の方へと回りました。
おゆきと鉢合わせてしまったらどうすれば良いのだろうか、とそこで気が付きました。
行き当たりばったりで動いて、自分のした事に戸惑う癖のあるわたくしは、どうしたものかと立ち尽くしました。
すると、喉の奥から絞り出す様な恐ろしい獣の唸り声が、曲がり角の向こう側から響いてきたのです。
何事かとそちらを覗けば、すえたにおいを漂わせた狼の様な野良犬がおりました。
興奮して血走ったその目の先を追って、わたくしは愕然としました。
そこにはおゆきが、腰を抜かしてへたり込んでいたのです。
どう猛な野良犬に塀際へと追い詰められ、逃げる事さえできずにいました。
大きな目は涙で一杯になり、か細い体はがくがくと震えています。
わたくしは考えるより先に、おゆきの前に飛び出していました。
いきなり現れたわたくしに、野良犬はわずかに怯む様子を見せました。
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