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「あっ、姐さん!」
驚いた声を上げるおゆきに、わたくしは簡潔に告げました。
「わたくしの体の陰に隠れていなさい。良いと言うまで、動かないように」
今おゆきが逃げ出そうとしたところで、腰の抜けた体では追いつかれるのが目に見えています。
わたくしに言われた通り、おゆきが体を低くして守りの姿勢を取る気配が伝わってきました。
それを確かめて、わたくしは自分の体の数倍はありそうな野良犬に向き合います。
何か言ったところで、元より言葉の通じる相手ではありません。
粘ついたよだれを滴らせた牙で一噛みされれば、わたくしなどひとたまりもないでしょう。
それでも、わたくしは絶対に退く訳には参りませんでした。
野良犬に傷つけられたおゆきを見れば、旦那さまはきっと深く悲しまれるでしょう。
そんな旦那さまの顔を思い浮かべただけで、胸が締め付けられる思いがいたしました。
けれど、わたくしとて恐ろしい気持ちに変わりはありません。
いつもの行き当たりばったりで、わたくしは一か八か飛び上がり、野良犬の鼻先に思い切り噛みついてやりました。
野良犬はキャウンと情けない悲鳴を上げるや、尻尾を丸めてひっくり返ってしまったのです。
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