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それを聞きつけてか、慌ただしい足音が家の中から聞こえてきたかと思うと、旦那さまとたえさんが縁側に姿を見せました。
「あれ、野良犬ですわ、旦那さま!まあ、うちの庭になぞ入り込んで。あっちへお行きったら!」
体格の良いたえさんに追い払われた野良犬は、脇目もふらずに逃げ出してしまいました。
「おゆきに怪我が無いと良いのだが、どこへ行ってしまったのだろうね」
そうしてお庭を見回した旦那さまは、隅っこで震えるおゆきと、そんなおゆきを守る様に立っているわたくしに、大層びっくりなさった様子でした。
「おたま!」
わたくしの名を叫ぶと、裸足のままで脇目もふらず庭に下り、わたくしを抱き上げられたのです。
「一体、今までどこに行っていたんだい。私がどれだけ心配したことか」
街の土埃に晒され続けたわたくしの体は、お世辞にも綺麗とは申せません。
それでも、旦那さまはわたくしの体をきつく抱き締めて、決して離そうとはなさいませんでした。
「まあ、おたまが帰ってきましたの」
旦那さまの腕の中を覗き込んだたえさんが、しょぼしょぼした目を大きく見開きます。
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