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旦那さまとの出会い
わたくしが初めて旦那さまにお目にかかりましたのは、ある晴れた五月の朝でございます。
人の良さそうな真白いお髭に、まん丸い眼鏡をお掛けになった旦那さまは、わたくしを見るなり
「ほう、こりゃあべっぴんさんだ。どうか末永くうちにいてくれよ」とおっしゃいました。
それから、小さなわたくしの体を軽々と抱き上げ、わたくしのほっぺたに頬ずりをなさいました。
地面から足が離れる感覚というのはどうも心細くてなりませんが、わたくしは何とか我慢をいたしました。
わたくしがこうして旦那様のお家に貰われてくる前、共に過ごした姉さまのお言葉を思い出したからです。
「よろしいですか。向こうのお家へ行きましたら、身を粉にして旦那様へお仕えするのですよ。決して、不満などもらさぬように」
寄り添って眠った最後の夜、姉さまはそう言って涙を流されました。
きょうだいは姉さまの他にも大勢おりましたが、わたくしの生まれ育った家ではその全員を養う余裕はありませんでした。
その為、わたくしを含めた幾人かは他所へやられたのです。
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