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「言い過ぎたかな…」
柔らかく笑った夫はポンポンと私の頭に触れると
「さすがに、一緒に仕事をした人の名前を忘れるなんて年齢ではないよ、まだ」
と肩を揺らす。
「でも連絡先のリストにもなくて名前を見ることもなければ、忘れている存在だよ」
「彼女の話じゃ…今の秘書さんが豊さんの浮気相手だよ?」
「違うって言っても、真湖が気にして悩むんだから困ったね。でも次の秘書は女性ではないって言えば安心?」
私の髪に手を滑らせて顔色を覗き込んだ夫とバチッと視線が合った。
「…男性秘書さんなの?」
「そうだよ。月末のパーティーで紹介するよ」
どうなってるの?浮気の確証がないまま、私の勘違いで葬られそうな思いをクッと飲み込むと胃が痛む気がした。それでも彼の手を払いのける気にならない自分の気持ちも認めるしかなく、元秘書がストレス解消に悪態をついただけ?と2年も経った今になって考える自分の迂愚さ加減に呆れる。
「今夜は一緒に休もうか、真湖?」
彼は私の頬と首筋へ優しく唇を落とすと自分の寝室へと私を誘う。そして大きなベッドで私の頭を撫でながら静かに眠りについた。私は安心出来るはずの体温を感じながら、頭は夫との会話とこれからのことを考えるのに忙しく東向きの窓の外が白むのを感じてから、やっと少し微睡んだ。
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