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浮気の疑いがあるからと嫌いになれたなら‘離婚’と言えたのかもしれない。さっさとそう言えたなら、それが一番楽だったと今なら思うけど、当時はそう思えなかった。
寝室が別々になった以外には変わりない距離感で生活していた。忙しい夫だけれど、相変わらず小まめにゴルフやデートに誘ってくれるし、私も元秘書の一言で疑って申し訳ないという思いと、やっぱり好きだという気持ちがあるから。
それに私の両親と夫の関係、夫の両親と私の関係がとてもいいこともあり、疑いだけで離婚と言い出す気には全くならなかった。
だけど、今から4ヶ月ほど前にまた女性秘書が交代した。この秘書はこれまでの秘書と違って、たまに休日に電話をしてくる。夫は慌てることなく、私の前で話をしているし特に問題視していなかったのだが
「じゃあ、楽しみにしているよ。おやすみ」
と夫が言った時に違和感を覚えた。
「ねぇ…疑うようで申し訳ないけれど、お仕事と思えない口調ね」
「ああ、時間外の少し私的な会食の手配についてだったから、つい。真湖も一緒に来る?真湖の知っている人も何人かいるよ。おいでよ」
彼は顔色を変えることもなく、私も会ったことのある不動産会社社長などの名前を挙げて、一緒にと私を誘った。でも疑った直後にその秘書が整えた席に着くのが何だか嫌で、行かないことにした。
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