6710人が本棚に入れています
本棚に追加
社長以下、全て女性ばかりの職場はとても居心地が良かった。友達には‘女同士でやっかみとか大変そう’と言われたけれど、社員は10人もいない規模で皆が仲良くやっていた。登録のモデルさんからすれば、お仕事を欲しい立場だから無理やワガママを言ってくることもない。
19歳で私を産んだ母より年上の社長は、頼りになるとてもはっきりとした方で、例えば私の撮影中にいやらしい目で足を舐めるように見つめるクライアント社長に
「大切なうちの商品の撮影中です。鼻の下を伸ばさないで下さい」
と言ってタオルで足を隠してしまうような方だ。それを見ている私達も、誰かの撮影に付き添った場合、必ずモデルを守るという暗黙のルールが出来ていた。
夫と出会ったのは知人の紹介だったのだが、当時、夫は私に
「足だけでなく、口もモデルをすればいいのに」
とよく言っていた。チャンスがあるなら掴むべき、というのが彼のビジネス戦略で私にもそう言っているのだと思ったけれど私は顔出しは拒んだ。
しかし、いざ結婚となると、夫は私に仕事を辞めてくれと言った。事務のパートだけでも続けたい、と私も社長も思ったけれど夫は
「家庭で自分を支えて欲しい。モデルが続けたければうちの会社のパンフレットやCMに出る?」
と笑った。彼は私を表に出したい気持ちが、付き合っている時からずっと心の何処かにあったのかもしれない。
最初のコメントを投稿しよう!