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裏方のような事務は辞めてという彼の意向と、彼の社長という立場を考えなさいという私の母の言葉もあり仕事は辞めたけれど、私はモデル事務所の社長と毎年、年に二度は会っている。
安西社長は人と会うのが大好きで、業界の異なる人と会うのが特に好きと公言されているので、私と年に二度のランチを続けて下さっている。先日お会いした時には
「もしもですけど…私がお仕事をさせて頂きたいとなれば、事務等…安西社長の事務所でお仕事はありますか?」
と聞いてみた。浮気疑惑などは一言も伝えずに…
「あるわよ。お子さんもいなければ、さすがに暇になってきた?」
「そんなところです…まだ何も分かりませんけれど」
「いつでも連絡ちょうだいね。仕事のことも、この定期的なランチのことも、どちらでもないことも、いつでも。私と真湖ちゃんの距離っていうのは一番何でも打ち明けやすいと思うわよ、私は」
「ありがとうございます」
浮気の確証はなかったけれど、何回も何年も同じ悩みを抱えることは嫌だし、レスのまま夫を縛り付けるのも申し訳ない気がするので、私は離婚を申し出る準備を始めた。
喪服から着替え、夫が淹れてくれた珈琲を前に
「安西社長のところで、仕事をしようと思うの。事務なんだけれど、いいでしょ?」
最低限の自立を目指して声を上げた。
「今になって急だね。どうして?」
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