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「どうしても時間があるの…暇ってわけ」
お稽古ももう十分やった。そこから趣味のように料理にもお菓子作りにも力を入れたことがあるけれど、出張のある夫と二人だけの小さな家族では暇潰しにもならない。部屋を散らかす者がいない部屋で、最新の家電が活躍するので家事労働時間は少ない。友達と会うにも彼女達はフルタイムで働いているか、結婚しても時短で働いているので結局土日に会うしかない。
「モデルはしないの?」
「もう出来ないでしょ」
「そうか?相変わらず綺麗だけど?エステでメンテナンスする?」
いまだに夫は私が表に出るのが好きなようだ。パーティーにもちょくちょく参加するしね。
「ううん。もう35だよ?モデルはやらないよ」
「そうかなぁ…仕事は安西社長と決めたのか?」
「まだ具体的には何も」
「時間とか何も決めてない?」
「うん、まだ」
「母さんが寂しがるな」
お義母さんとは時間のある者同士、月に2、3度会っている。夫は私の仕事に一言も反対とは言わないし、終始穏やかに話を聞き入れるかのように話しているが‘いいよ’とも言わない。
「先に安西社長と時間とか相談した方がいいんじゃないか?事務で採用があるのかどうか、あるならその業務量によって勤務時間とか、時給か月給か…簡単に‘働く’というわけにはいかないだろう?確認しないといけないことは多いはずだよ」
彼はとても優しく尤もなことを丁寧に私に伝えて、私のお伺いを保留にした。
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