元服

1/1
前へ
/48ページ
次へ

元服

その日、 庶長子一之丞と五男吾朗は、 父である藩主に呼ばれ、 城の表にいた。 長男と五男(二、三、四男は早世) とはいえ、 ふたりは母が違い、 歳は一歳しか違わなかった。 「近いうちに、 そなたたちの元服の儀式を行うつもりじゃ。 それと共に、一之丞は正室の嫡男とし、 正式に跡取りとして幕府に届け出る。 吾朗は分家を立てて、 重臣と共に本家をもり立てて貰いたい。 奥女中を数名新たに 一之丞、吾朗にそれぞれつける故、 気に入った者がおれば、 側女とするが良い。 正室は、 他藩のご息女を貰い受けることとなろうから、 今少し先のことになろう。 両名とも、 元服の後は大人として 責任ある立場となることをよく心得、 より精進いたすように。よいか?」 「父上様、申し上げたい事がございます。」 「なんじゃ。」 「奥女中の件は、 ご配慮大変有り難く存じますが、 私は、元服の後に富樫様のご長女茜様を 正室に迎えたいと存じます。」 「それは、富樫も承知のことであるのか? 長女であれば、 城へ上げるつもりなのではないか?」 「富樫様とは、お話がついております。 奥女中としては、 次女の芙蓉様を城に上げるつもりとのことでした。 茜様を正室にというのは、 富樫様からの内々のお話でした。 近いうちに、 父上様にも正式にそのお話はあるかと。」 「そうであったか。 分家となるそなたに、 後ろ盾となる重臣との縁組も悪くはない。 では、吾朗の婚姻については、 その様に進めることとする。」 「ありがとうございます。」
/48ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加