茜の怨念

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茜の怨念

若君様。 あなた様がお悪いのです…。 あのように芙蓉を愛しんで…。 そしてまた、芙蓉も 父上の命に背き、 自分の身を挺しても悔いないほど、 若君様をお慕いしていたとは… 私は、 父上より企みを聞かされて 説得されたのでした。 なぜ、 お城に上がるのが芙蓉なのか。 それは、 「時が来たら、 若君様が嫡男となることを阻み、 ご隠居に追い込む…。 その後は、 吾朗様を世継ぎに立てる。 だからそなたは、 吾朗様の正室となるのだ。」と。 その父の言葉を信じ、 私は、 家臣の妻となる屈辱に 耐えたのです。 芙蓉がお城に上がることになり、 私は、家臣のもとへ嫁ぐ… それを父から告げられた時の悔しさ。 どれほど唇を噛み、 涙を流したことか…。 芙蓉、 そなたのせいじゃ。 若君様と共に隠居し 大人しく引っ込んでおれば よいものを… こざかしい真似をして… 若君様と実家を 守ったつもりであろう… 父上は、ご隠居、 吾朗様も蟄居となった。 私は… これからどうなるのだろう… 薄く雨戸を開けた室内に閉じ込められ、 外へも自由に出られず、 人とも会えず ただ屋敷の中で生きているだけ… いつ蟄居が解けるともわからぬまま… このままこの薄暗い部屋の中で 朽ち果ててゆくのか… 藩主となった若君様からは、 「蟄居を解くまで、 静かに芙蓉の菩提を弔うように」 との伝言が伝えられた。 悪巧みに加担した、 身から出た錆ということか… しかし私は、 城主夫人となるべく 育てられてきた。 身を慎み、 はしゃぐこともせず、 ひたすら耐え忍び、 誰よりも美しいと言われるように 努めてきた…。 城主夫人になれないのであれば、 なんのために生きているのか? 私の存在そのものを 否定されたも同じ。 私は、初めて人を憎いと思った… それは、芙蓉に向けられた。 だが、その芙蓉は すでにこの世にはいない… この無念さを 誰にぶつければよい… やり場のない怒りと憎しみは 容易に消えそうになかった…。
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