0.異端者とプロローグ

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0.異端者とプロローグ

「炎魔法 爆炎陣(ばくえんじん)!!」 闇夜の戦場の真ん中に大きな火柱が上がった。 爆音で悲鳴はかき消され、その火柱に突き上げられるように人が宙に舞う… ここでは人の命が爆風で巻き上げられる砂のように軽い。 「大丈夫か!?小規模の反乱軍だと思っていたが、奴らがこんな魔法を使ってくるなんて……衛生兵!重症の怪我人は後回しだ…」 爆炎で巻き上げられたのは軍服を着た国の警備隊であった。 ここはアルハデスの首都から少し離れた郊外の森…だった場所である。すでに戦闘により木々はなぎ倒され、広場ができあがっている。 その中心には壊滅状態の警備隊の姿があった。 密告によって、反乱軍のアジトを見つけたものの小規模ということで派遣された警備軍は少数…… 「あの密告は罠だったか。」 警備隊の隊長は唇を噛み、呟いた。 すでに警備隊の半数は戦闘不能である。 「隊長!これ以上はもう持ちません。一度ひきましょう。」 一人の隊員が隊長に懇願する。 「この包囲網を突破できるのならな…いいか?俺がなんとか道を作る。お前は本部に戻り、救援を要請しろ!分かったな!」 隊長は残された力を振り絞り剣を握る。 (俺の死に場所はここなのか…まだまだやりたいことあったのになぁ) 隊長は無謀とも言える突撃をした。恐らく道は開けないだろう。 敵は万全の状態で待ち構えている。 中には笑っている奴も… 隊長はせめて一矢報いたかった。 しかし待ち構える反乱軍の魔法使いはニヤつきながら口を開いた 「炎魔法…爆え…」 その時であった。敵陣の後方から爆炎が立ち上った。 相手の魔法が暴発でもしたのだろうか。 思わず警備隊も、それを待ち構えていた反乱軍もそちらの方を向いた。 「炎魔法…炎龍の咆哮(えんりゅうのほうこう)!!」 敵陣の後方からまたもや爆炎が上がる。それは先ほどまで警備隊を襲っていたものではなく反乱軍を一掃する炎だった。 一掃された敵陣の中に道ができ、その奥から十数人の人影が見える。 はっきりと認識できる距離になってその集団のリーダーと思わしき赤いコートに黒い槍を持った精悍な顔立ちの男が敵陣に突撃をしようとしたまま止まっていた隊長を見つけ、話しかけてきた。 「遅くなりました。国からの依頼により派遣された傭兵ギルド【朝焼けの鴉(あさやけのからす)】のモミジです。これよりあなた方の力となりましょう。」 それを聞いた隊長はその場で膝から崩れ落ちた。 「ありがとう…助かったよ。あとのことは任せていいか?」 「もちろんです。隊長さん。…おい!アトメ!いっしょに派手に行くぞ!イツタケとシロクロは負傷者を守りながらこの場を離れろ!ほかのやつらは自由にやれ!それとティルはいるか!?」 傭兵のリーダーは大きな声で指示を飛ばした。 その声に反応するようにそれぞれが動き始める。 「水魔法…アクアドロップ!」 「風魔法…エアカッター!」 「土魔法…蟻地獄!」 傭兵たちは次々と魔法を繰り出し、反乱軍は先程までの余裕が嘘だったかのように悲鳴をあげ、もはや戦う意志さえ無くし、我先にと散り散りに逃げていた…… そこに少し遅れて戦場にはあまり似つかわしくない一人の少女が現れた。 「ティル!遅いぞ!?」 傭兵のリーダーはその少女に対して「まったく…」と言う表情をしながらその少女に指示を出した。 「ティル。あれが今回の依頼にあった敵のアジトだ。他のメンバーは敵の対応に忙しいからお前の魔法で潰してくれ。」 リーダーが指さした方向に古びた大きな建物が見えた。それに向かって逃げる反乱軍も見える。 「わかりました!任せてください!」 少女はそのアジトと思われる方向に手をかざす。 「月魔法…白夜光(びゃくやこう)」 少女が呟くとアジトの上に巨大な白い光が一つ現れ、そのまま落下した。その瞬間辺りは昼間かと思うほどの光に包まれた……
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