花見しようよ

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「あ、桜咲きそう」 サークルの先輩の引退パーティーの帰り道、信号を待つために止まった時、ふと、道端の桜の木が目に入った。少し濃いピンク色をした蕾が膨らんでいる。 「確かに。そういえば標本木の桜が2輪咲いたからもうすぐ、とか朝ニュースで見た気がするわ」 隣に立つ彼女は冷たい視線を桜に投げかけながらそうつぶやいた。 「桜、嫌いなの?」 「うーん、まあ。木に罪はないけどね」 「美しすぎるとか、下に死体埋まってそうとか、そういう理由?」 読書家の彼女のことだから、桜に関してなんらかの特別な思いがあったりするのかな、と思った。 実際、大きく腕を広げている桜の力強い感じとか、白っぽい花びらには少々の神秘性を感じなくもない。 「いや、違う。だったらめちゃくちゃかっこいいんだけど、すごいくだらない理由。私、女の幼馴染がいるんだけど、そいつの名前が字は違うけど『さくら』っていうの」 「あ、察し」 「たぶん合ってる。昔からいつも他人のものを欲しがって、彼女持ちの男を見つけては略奪してポイを繰り返すクソ女だったんだわ。私、見かけはおとなしそうだし、幼馴染だからあいつをなんとかしてくれ、ってしょっちゅう文句言われてだるくって。で、名前が『さくら』だからって自分のマークを桜にしてたり、やたら好きだったから見るたびに思い出しちゃうんだよね」 「ご愁傷様です」 「でしょ。ほんと、あいつ成績良くないから高校で分かれられたのが幸いだったよ。あ、信号変わったから渡ろ」 「うん」 今後花見には誘わないでおこうと心に決めて彼女に着いて横断歩道を渡った。 「じゃあ、サークルのお花見に来なかったのってそのせい?」 「ああ、それはバーベキューを騙る焼肉アンチなだけ。焼肉は絶対店の方がおいしいし、バーベキューっていうなら串焼きでしょ、っていう論者なの。花見自体はそんなに桜見ないし、飲み会は好きだから普通に酒となんか食べ物持ち寄るとかだったら全然行くよ」 花見はいいんかい!と心の中でツッコミたくなった。2年間一緒にいるけど、未だに彼女のキャラが掴みきれない。 「今度少人数で開催しよっか」 「いいの!?行く行く!」 「串に刺す方のバーベキューもやる?しばらくやってないから親に聞かなきゃわからないけど」 「いいね!私、マシュマロ焼きたい」 「OK。てきとうに募集かけとく。じゃ、私こっちだから」 ちょうど駅に到着したので、違う路線で通う私たちは手を振って分かれた。 後日、行なった花見バーベキューの会はなんだか童心に戻った気がして楽しかった。確かに彼女の言ったとおり、串焼きの肉と野菜、それにマシュマロをなかなか焼けない!とか、逆に焦げた!とかわいわい言いながらやることこそがバーベキューというイベントの楽しさなのかもしれない。 まあ、童心とか言っておきながらみんな酒の缶を片手に持ってたけど。
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